日本国債の格下げリスク巡る議論が活発化 選挙控え財政悪化懸念

日本の巨額債務とその負担を悪化させかねない選挙結果への懸念で、日本の国債格付けが早期に引き下げられるのではないかといった議論が活発化している。

  20日の参議院選挙投票日を前に、現金給付や消費税引き下げといった公約が紙面をにぎわせる中、格下げを巡る議論が広がっている。公式データによれば、歳入に対する利払い費の比率は2026年3月までの年度に8年ぶりの高水準に達する見通しで、日本の信用格付けの先行きに暗雲が垂れ込めている。

  日本の状況は、財政赤字の拡大に対する世界的な不安感を反映している。トレーダーらからは放漫財政について政府の責任を問う声が強まり、債券市場に圧力がかかっている。

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  日本国債利回りは今週、約20年ぶりの高水準に達した。格下げとなれば政府の借り入れコストがさらに跳ね上がるのはほぼ確実だ。

  ジュピター・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、マーク・ナッシュ氏(ロンドン在勤)は「格下げの可能性はかなり高い」と話す。同氏は日本の格付け見通しに悲観的で日本国債に対して弱気の立場を取っている。「日本銀行がインフレ抑制のために利上げを余儀なくされれば、債務負担は重くなるばかりだ」と指摘した。

  ブルームバーグの試算によると、今年度の日本の利払い費の対歳入比率は12.2%と、前年度の9.9%から拡大する見通しだ。

  S&Pグローバル・レーティングが15年9月に日本の格付けを「A+」に1段階引き下げた当時、この比率は13.6%だったが、その後はかなり低下した。現在の環境で格下げが現実となれば、その影響は深刻かつ広範囲に及ぶ可能性がある。

  日銀が大規模な金融緩和策を実施してインフレ押し上げを図っていた10年前には、格下げに対する市場の反応はほとんど見られなかった。だが、現在は状況が一変しており、日本はインフレ加速と金利上昇という環境に直面している。

  選挙の結果次第では、今後数日で日本国債の価格変動がさらに大きくなる可能性がある。ルーミス・セイレス・インベストメンツ・アジアのグローバルマクロストラテジスト、ボー・ジュアン氏は「債務の持続可能性が再び主要なリスクとして浮上すれば」海外の機関投資家は日本国債をアンダーウエートとする可能性が高いと指摘する。

  与党が過半数を失えば「幅広い消費税引き下げを受け入れざるを得なくなる可能性がある。それは大きな打撃となるだろう」とジュアン氏は語る。その場合、「売り圧力はイールドカーブの長期ゾーンに集中するだろう」と指摘した。

  日本格下げの影響は世界に波及する公算が大きい。最近の日本国債市場のボラティリティーは他の主要国の債券市場にも影響を及ぼしてきた。

  米国債市場は長らく日本からのリスクにさらされてきた。日本の投資家は米国債の最大の海外保有者だからだ。ブルームバーグが行った10年債・30年債スプレッドの分析によると、日本国債の変動による米国債への影響は日銀が国債利回りのコントロールを緩めてから高まった。

  ムーディーズ・レーティングスのシニアバイスプレジデント、クリスチャン・ド・グズマン氏は「日本はこれまで、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後の財政健全化と債務安定化の流れを他の先進国と比べて強固に維持してきた」と指摘。その上で、「現在の財政提案による格付けへの影響は、その内容や規模、恒久性」および財政悪化を緩和するための将来的な政策によって左右されるとの見解を示した。

  フィッチ・レーティングスのアジア太平洋地域ソブリン格付け担当ディレクター、クリスヤニス・クルスティンス氏は、今回の選挙戦で提示された政策について「激しい議論や交渉の対象となるだろう。最終的な結果を予測するには時期尚早だ」と述べた。

  S&Pのディレクター、レイン・イン氏は、選挙後に財政状況が悪化したとしても日本のソブリン格付けに直ちに影響を及ぼすことは想定していないとして、今年1-6月(上期)の歳入増によって影響の一部が相殺されるとの見方を示した。

  東短リサーチのチーフエコノミスト、加藤出氏は、最近ニューヨークにある日本の銀行のオフィスを訪ねた際、格下げの可能性が話題になっていたと指摘する。

  加藤氏は15日付のリポートで、日本の格付けが引き下げられれば、日本の銀行にとってのドル資金調達コストが急上昇するリスクがあると説明。その結果、企業のドル建て借り入れコストも上昇し、海外事業戦略に影響を及ぼしかねないと警鐘を鳴らした。

  S&Pとムーディーズ、フィッチはいずれも日本の信用格付けの見通しを「安定的」としている。格下げの前提条件というわけではないが、この流れにおいては、まずは見通しが「ネガティブ(弱含み)」に変更されることが論理的なステップといえる。

  ムーディーズが現在日本に付与している格付けは「A1」と、最上位の4段階下に当たる。フィッチの格付けは上から6番目の「A」。S&Pの格付けが日本と同等の水準にあるのはサウジアラビアや中国、クウェートなどだ。

  全ての市場関係者が格下げが差し迫っているとみているわけではない。バンガード・アセット・マネジメントなどはより楽観的で、イールドカーブの長期ゾーンには買いの好機があると考えている。

  バンガードの国際金利責任者、アレス・クートニー氏「この問題に対する市場の反応はやや過剰だ」と述べ、「日本の利払いコストは、他国や日本の債務残高と比較すればなお小さい。金利が低く、日銀が国債の50%を保有しているためだ」と説明した。

  トレーダーの見方はそう楽観的ではない。

  日本の10年国債利回りは今週、08年以来の高水準に達した。参議院で自民、公明両党が過半数割れとなった場合の影響を市場が織り込み始めたことがうかがわれる。

  フィッチのクルスティンス氏でさえ、与党が敗北すれば、財政政策の緩みと国債利回り上昇につながる可能性が高いと警告している。

  チャールズ・シュワブのチーフ債券ストラテジスト、キャシー・ジョーンズ氏は「日本は再び格下げのリスクに直面している」との見方を示す。

  同氏は「私の見る限り、債務の対国内総生産(GDP)比を引き下げるための信頼に足る戦略は、いまだに存在しない」と指摘。「高齢化が進む中で、構造的な改革が実施されなければ、持続可能な財政運営への道筋を取り戻すのは困難だろう」と述べた。

原題:Traders Debate Threat of Japan Rating Cut as Debt Risks Rise (1)(抜粋)

(現在の格付け水準や専門家のコメントを追加して更新します)

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