アングル:米企業の輸出許可承認が滞留、担当部局は機能不全に
[1日 ロイター] - 米企業による世界各国への商品・技術輸出の許可申請が、数千件も宙に浮いている。審査を担当する政府機関が混乱状態にあり、ほぼ機能停止しているためだと関係者2人が明らかにした。
商務省のラトニック長官は、トランプ大統領の関税政策や貿易合意をアピールする「顔」として知られるようになった。だが関係者によると、その指揮下にある産業安全保障局(BIS)は予定されていた新規則を発表していないほか、業界関係者との連絡も途絶えがちだ。専門家を追い出し、引き抜きや辞職によって職員を相次いで失っているという。
ところが関係筋によると、8月1日の週にライセンスはまだ発行されておらず、AIチップ数十億ドル分の受注が影響を受けている。
ある米高官は、ライセンス申請の滞留期間は過去30年余りで最長になっていると指摘した。エヌビディアの広報担当者はコメントを控えた。
商務省の報道官は承認の遅れについて、BISは「国家安全保障上、重大な疑義のあるライセンス申請を、もはや無条件で承認することはしていない」と弁明。「BISは厳格な規則と積極的な執行を通じ、トランプ大統領の政策を推進している」と付け加えた。
輸出促進と米国の技術保護という任務を負うBISの混乱と対応の遅れは、対中輸出の規制強化を求める勢力と、輸出を望む企業の双方に懸念をもたらしている。
第1次トランプ政権で国家安全保障会議(NSC)に在籍したメガン・ハリス氏は「ライセンス承認は米国がビジネスを展開し、国際競争に臨むための手段だ」と述べ、「遅延と不確実性によって米国は不必要に不利な立場に追いやられている」と懸念を示した。
直近のデータによると、BISが2023会計年度に輸出許可申請の承認に要した日数は平均38日で、3万7943件のうち2%を却下した。
輸出許可の審査制度は、米国の国家安全保障を脅かす可能性のある国や団体へとセンシティブな商品や技術が流出するのを防ぎ、輸出規制を執行する手続きだ。
一部の職員は、3月に就任した商務省のジェフリー・ケスラーBIS担当次官が業務の細部にまで干渉し、十分な意思疎通を行っていないと批判している。
関係筋2人によると、ケスラー氏は就任直後の職員会議で、企業の代表者や業界関係者との連絡を控えるよう職員に要請。後に、全ての会議をスプレッドシートに記録するよう指示したという。
他の政府機関との会合に参加するためにはケスラー氏の事務所の承認を得る必要があるが、その手続きも困難になっていると関係者は述べている。
BISの報道官は、ケスラー氏が「局の信頼回復に取り組んでおり」、ラトニック長官から「全面的な信頼を得ている」と述べた。
<輸出企業からの不満>
米国内の産業界では不満が高まっている。
米中ビジネス協議会のショーン・スタイン会長は、数十億ドルの半導体製造装置のライセンス申請を含め「特定のセクターでは全く進展がみられず、輸出許可がいつ発給されるのか、そもそも発給されるかどうかさえも不明な状況にある」と話した。申請の期限が迫る中、「中国企業はすでに中国国内や他国のサプライヤーと取引を進めている。遅延が長引くほど、われわれは市場シェアを失う」と同会長は話した。
南部フロリダ州に拠点を置く貿易コンサルティング会社、コンプライアンス・アシュアランスのジム・アンザローネ社長は、中南米その他の地域向けのセンサーやレーダー、ソナー(音波によって水中の物質を探知する装置)のライセンス承認が遅れていると説明。「政策の内容や遅延の解消時期について、公式な発表は何もない」と語った。
関係筋らは、一部のライセンスは承認されており、特に同盟国への輸出が優先されていると強調する。ライセンスを巡る企業との連絡も一部では継続中だという。
商務省の規制変更も遅れている。同省は5月、バイデン前政権下で同月施行が予定されていたAIチップの輸出先を制限する規則を「撤回し差し替える」と発表したが、現在も実施されていない。
関係筋によると、数カ月前から草案が作成されている他の規則も未公表だ。これには、既に米国からの輸出が禁止されている企業の傘下企業に対する輸出制限を拡大する規則も含まれる。
中国駐在の輸出管理官など重要ポストの空席が埋まっていないほか、上級のキャリア職員が辞任している。8月1日の週には、BISの輸出管理法令執行課の課長代理の送別会が開かれ、経験豊富な職員がまた一人去った。
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