高騰のホテル宿泊費、15社の情報共有が常態化…公取委「カルテルにつながる恐れ」と警告
東京都内の有名ホテルが客室単価などの情報を共有していた行為が価格カルテルにつながる恐れがあるとして、公正取引委員会は8日、「帝国ホテル」(東京都千代田区)や「オークラ東京」(港区)など15のホテルを運営する15社に対し、独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで再発防止を求める警告を行った。価格つり上げなどの行為は確認されなかったが、各社で内部情報を交換していたことを問題視した。
発表によると、15社のホテル担当者は毎月、持ち回りで各ホテルの会議室などで会合を開催。毎月の客室の稼働率や平均単価、今後の予約状況や料金設定の方針といった各社のホテル営業に関する内部情報を共有していたという。
こうした会合は「FR会」(フロントリザベーション会)と呼ばれ、長年続いていた。内部情報の交換がいつから始まったかは不明だが、公取委は少なくとも数年前から情報交換が行われていることを確認。なれ合いで次第に情報交換が常態化していったとみられる。
警告対象となったホテル公取委の調査では、各社が足並みをそろえて宿泊代の引き上げや価格維持といった明らかなカルテル行為は確認されなかった。ただ、他社の情報を客室の料金設定の参考にしていたホテルもあったという。
ホテル業界は横のつながりが強く、ビジネスホテルなどでも様々な会合が行われている。公取委は業界全体に注意を促すため、各社が加盟している業界団体の「日本ホテル協会」や「全日本ホテル連盟」に対し、独禁法の順守を会員ホテルに周知するよう要請した。
15社は既に会合を取りやめており、情報交換もしていないという。取材に対し、各社は「警告を 真摯(しんし) に受け止め、法令順守に取り組みたい」などとコメントした。
2019年から4割上昇
ホテルの宿泊価格は近年、コロナ禍後のインバウンド(訪日外国人客)の回復と日本人旅行者らの増加で値上がりが続いている。ただ、AI(人工知能)を導入して宿泊価格を決めるホテルも多く、専門家は「月1回程度の会合で価格を決める時代ではない」と指摘する。
ホテルの多くは、将来の需要を予測し、価格を変動させて収益を確保する「レベニューマネジメント」という手法を取り入れている。予測には、過去の予約状況や周辺で行われる行事といった様々なデータや情報が活用されており、最近は価格算出にAIを活用するホテルも増えているという。
今回の15ホテルの会合について、淑徳大の吉田雅也教授(ホテル経営)は「法的に疑わしい会合は控えるべきだが、全体の値上げや価格維持には関係していないだろう」と話す。
国内の昨年の宿泊者数は、過去最多となる延べ6億5028万人を記録し、うち1億6360万人の外国人はコロナ禍前より4割増えた。東京商工リサーチが、継続的に調べているホテル運営会社11社の客室単価(昨年10~12月)は平均1万6289円で、コロナ禍前の2019年の1万1516円から約4割上昇した。
ホテル業界は今後も好調が見込まれ、値上がりの流れも続く見通しだ。吉田教授は「インバウンド消費の稼ぎ頭は宿泊業で、従業員の待遇改善が必要。人件費の原資確保や昨今の物価高騰もあり、宿泊価格の値上がりはやむを得ない側面もある」と話した。