相次ぐモバイルバッテリーの発火 粗悪品を抑え込めるか アンカーも52万台自主回収

ホテル前に逃げ出した宿泊客ら=6日午前1時55分ごろ、京都市南区(東九龍撮影)

リチウムイオン電池を内蔵したモバイルバッテリーが発火・発煙する事故が相次いでいる。背景の一つが、ネット通販を介した低品質な海外製品の普及だ。政府は12月から法改正で事実上、「野放し」となっていた海外事業者への規制を強化する方針だが、新たなルールが守られるかどうかの担保はなく、先行きは不透明といえる。ただ安全基準を満たした製品でも使い方次第で危険性はある。関連市場が拡大する中、消費者へのリスク啓発が求められる。

投げ出された1400人

「避難してください」。6日未明、京都駅近くのホテルで火災報知機が鳴動し、アナウンスが繰り返された。現場では宿泊客ら約1400人が非常階段やエントランスから逃げ出した。

消防などによると、火元は2階の客室で、中国籍の30代の女性2人が宿泊。室内にあったモバイルバッテリーと机が燃えた。女性らは消防の調査にバッテリーは海外製だが、現地での安全基準を満たした製品だと説明。ただ燃え方が激しく、製品の特定には至らなかった。

同様のトラブルが各地で続く。9日には那覇発羽田行きの旅客機内でモバイルバッテリーから煙が出た。客席の足元にあった乗客のかばんから煙が上がり、隣の乗客が水をかけて消した。

アンカー・ジャパンが自主回収するモバイルバッテリー(同社提供)

さらに21日には、中国のモバイルバッテリーメーカーの日本法人アンカー・ジャパンが計4製品について発火の恐れがあるため自主回収すると発表。経済産業省によると対象製品は約52万台に上る。アンカーによると、製品の発火を受けて調査した結果、バッテリー関連部品の委託先の製造工程で異物が混入した可能性が判明した。

過充電、衝撃に注意

リチウムイオン電池は、リチウムイオンが正極(プラス極)と負極(マイナス極)の間を移動して充電と放電を繰り返す電池。小型で軽く、ためられる電気の量が多いため、スマートフォンなどのモバイル機器の普及につながった。

ただ過剰な充電や放電、衝撃などに弱く、適切に管理する必要がある。破損したり変形したりすると内部の物質が化学反応を起こし、発火することがある。

リスクは衝撃だけではない。近畿大産業理工学部の春田正和准教授(エネルギー材料)は「高温にさらされることでも劣化し、燃えやすくなる」と指摘する。

消費者庁によると、リチウムイオン電池が発火するなどした事故は令和2~6年度に計約2350件あったとみられる。

リスクは常に

モバイルバッテリーは平成31年2月から電気用品安全法の規制対象となり、技術基準への適合を示す「PSマーク」の表示が義務付けられた。しかし近年はネット通販が拡大。オンラインモールを通じて消費者に直接販売することで、安全基準を満たさない粗悪な製品が出回っていた。

経産省はネットパトロールに加え、製品の安全性を確認する試買テストなどを実施してきたが限界もあった。価格を重視し、安全性に不備のある製品を選ぶ人も少なくない。

こうした状況を受け、政府は製品安全4法を改正。今年12月から、PSマークの表示義務がある海外製品を国内向けに販売する事業者に対し、日本国内の責任者となる「国内管理人」を置くことを義務付ける。また製品を日本の技術基準に適合させることを求めるほか、危険性がある製品について出品者がリコールなどの適切な措置を取らない場合、国が通販サイトの運営事業者に出品の取り消しを要請し、事実を公表する。

経産省は施行に向け、オンラインモールの運営事業者向けに説明会を開催するなどしている。しかし、海外事業者が改正法を守るかどうかは不透明で「(ネット通販が拡大する中、)完全に粗悪品を押さえ込めるかは分からない」(関係者)。

もっとも、PSマークがある製品でも使い方を誤れば発火・発煙リスクはある。「問題なく使用できたとしても、明らかに容量が減るなどした状況では使うのをやめた方がベターだ」と春田氏。消費者もリスクを認識し、細心の注意を払うことが必要だ。

伸びる関連市場規模

国内のスマートフォン向けモバイルバッテリー需要が拡大している。調査会社MM総研によると、充電器などを含むバッテリー関連の令和6年度の市場規模は1149億円で、10(2028)年度には1604億円に拡大する見通しだ。オンラインモールでは大手以外の新規メーカーの参入も増えている。動画配信サービスなどの普及で若者を中心にニーズは高く、各メーカーがしのぎを削っている。

パソコン周辺機器大手のバッファローによると、国内の直近6カ月市場規模は前年同期比110%前後で推移。同社は「発火・爆発リスクを軽減するバッテリーの採用を検討している」としており、安全性に重点を置いた戦略を取る。

マクセルブランドのモバイルバッテリーを展開する電響社では、持ち運びしやすい5千~1万ミリアンペアの人気が高い。急速充電に対応した機種も需要が高まっている。リチウムイオン電池はマクセル製ではないが、高い品質基準の協力工場のものを使用しており、温度や過電流などの保護機能を備えた製品をそろえる。

MM総研の分析では、購買層はスマホの使用時間が長い若い世代が中心だ。急速充電機能を備え、大容量の単価の高い製品の需要増が市場拡大に寄与するという。(東九龍、桑島浩任)

JR京都駅前ホテル火災 モバイルバッテリー発火か 約2千人宿泊、一時避難 けが人なし

関連記事: