米国からの頭脳流出は「好機」-科学者呼び込みへカナダや欧州が奔走

トランプ米大統領による広範な研究・連邦予算の削減を受け、米国の研究機関から科学者らが大量流出している。カナダや欧州、オーストラリアは、科学者たちを積極的に受け入れようと素早い動きを見せ、資金援助や移民手続きの簡素化、競争力のある移住支援パッケージなどを準備中だ。

  トランプ政権がイーロン・マスク氏主導の「政府効率化省(DOGE)」の下で連邦政府縮小を進める中、米国人研究者の多くが自身に将来を見つめ直している。

  3月に実施された科学誌ネイチャーの調査によると、回答者の75%に相当する1200人余りの科学者が米国を離れることを検討していると答えた。移住先としては、欧州とカナダが上位に入った。

  ノルウェーのオースラン研究・高等教育相は25日の声明で、「米国では学問の自由が圧力にさらされ、長年にわたり世界をリードしてきた研究大国にとって、予測不能な状況が続いている」と指摘した。

  ノルウェーは先週、国際的なトップ研究者を招致するために1億クローネ(約14億円)の基金を創設した。「学問の自由が危機にひんしている状況で、ノルウェーが積極的に動くことは重要だ」と同相は述べ、「卓越した研究者と重要な知識を守るため、速やかに行動したい」と表明した。

  豪州の科学アカデミーも、米国から流出する科学者や帰国する豪州人研究者を迅速に受け入れる「グローバル人材誘致プログラム」を立ち上げた。とはいえ、専門家の中には「自国の研究資金を増額しなければ、多くの科学者を引き受けるのは困難だ」と警鐘を鳴らす声もある。

  メルボルンにあるバーネット研究所の所長兼最高経営責任者(CEO)ブレンダン・クラブ氏は「支援の手を差し伸べるのは当然のことだ」が、「豪州のような国で資金の規模が拡大しない限り、本当に機能するとは思えない」との見方を示した。

ファクト尊重

  カナダでは、トロントのユニバーシティー・ヘルス・ネットワーク(UHN)が「カナダ・リーズ100チャレンジ」を始め、若手研究者100人の採用を目指している。UHNのケビン・スミスCEOは声明で、「今こそ好機だ」と主張した。

  カナダの学術界では、すでに国外から多数の求人問い合わせが寄せられているという。モントリオールのマギル大学で疫学・グローバルヘルスの教授を務めるマドゥカル・パイ氏は、同氏の部門で「近く新設される終身雇用につながる可能性のあるポジションには、過去最多の応募が見込まれる」と話す。

  欧州各国の動きは慌ただしい。米国から流出する科学者を呼び込むため、ドイツのハイデルベルクにある独立系バイオ医薬研究機関バイオメッドXは、米国立衛生研究所(NIH)に支給されていた助成金を失った研究者と製薬業界の支援者を結び付けるプログラムをスタートさせた。

  オランダやベルギーも、米国の研究者を対象とした新たな基金やポスドク(博士研究員)向けのポジションを設けている。米ニュースメディアのポリティコによると、さらにフランスとドイツ、スペインを含む欧州12カ国が、研究への干渉や不当な資金削減に苦しむ科学者に対して積極的に働きかけるべきだと共同声明を発表した。

  フランスは「科学のためにフランスを選ぼう」と銘打ったプラットフォームを正式始動させ、医療や気候、 生物多様性、デジタルテクノロジー、人工知能(AI)といった重要分野の研究拠点となることを目指している。

  仏パスツール研究所の所長で元NIH研究者のヤスミン・ベルカイド氏はビジネス向けSNSのリンクトインで、「科学の自由と独立は集団で守らなければならない」とした上で、「わが国や欧州にとって、競争力を強化し、再び世界の知識経済の中心地となるためのまたとないチャンスだ」とコメントした。

  デンマークもまた、積極的な呼びかけを行っている。デンマーク商工会議所のブライアン・ミケルセンCEOは米国の研究者らに宛てた招待状を公開。リンクトインに「デンマークは科学を重んじ、ファクトを信じている」と週末に投稿し、今後3年間で最大200人の米国人研究者を受け入れる優先的な取り組みを提唱した。

原題:Global Rush to Lure US Scientists Heats Up Amid Trump’s Cuts (1) (抜粋)

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