量子もつれは“使い回せる”かも、ほぼ無限に インドとベルギーの研究者が共有理論を発表
インドのHarish-Chandra Research InstituteとベルギーのUniversite libre de Bruxellesに所属する研究者らが発表した論文「Local entanglement transfer from an entanglement source to multiple pairs of spatially separated observers」は、すでに量子もつれ状態である1組のペアから、空間的に離れた複数のペアへと量子もつれを転送する新しいプロトコルを提案した研究報告だ。 【画像を見る】論文の掲載ページ【全1枚】 量子もつれとは、2つ以上の量子がどんなに遠く離れていても互いに強く関連し合う量子特有の現象をいう。これは、量子情報技術において極めて重要な資源だ。量子テレポーテーションや量子暗号通信など、さまざまな量子タスクで活用されているが、その生成と配布には通常、大きなコストがかかる。 今回研究チームは、この問題に対する新たなアプローチを提案した。従来、量子もつれは必要に応じてゼロから生成されるものと考えられていたが、この量子もつれを共有可能な資源として扱えるかという新たな視点から研究を開始した。 研究では、すでに量子もつれ状態であるアリスとボブのペアから、空間的に離れたペア(チャルとデブ)へ、局所的な操作のみで量子もつれを転送する方法を理論的に解析している。チャルとデブのペアが量子もつれを緊急に必要としているが、自分たちでは生成できない状況を考える。 計算の結果、チャルの粒子がアリスの粒子と相互作用し、デブの粒子がボブの粒子と相互作用することで、最初のペアから2番目のペアへ量子もつれの一部を受け渡すことが可能なことを示している。 さらに驚くべきことに、この転送プロセスは連続的に繰り返し可能であることが判明。アリス・ボブから最初のペアへ転送した後、残った量子もつれをさらに次のペアへ、そしてまた次へと、理論的には無限に続けられるのだ。 ただし、各ペアが受け取る量子もつれの量は徐々に減少し、転送には特定の条件を満たすユニタリ操作(量子ビットの状態を変化させる操作)が必要だ。また、転送効率は相互作用の強さと時間に依存するという制約もある。 Source and Image Credits: Mondal, Tanmoy, et al. “Local entanglement transfer to multiple pairs of spatially separated observers.” ※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
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