コラム:裏目に出るトランプ氏のロシア「2次関税」

 7月15日、 トランプ米大統領(写真)がロシアの輸出品を購入した国々に100%の関税を課すと脅しをかけたのは、彼らしい大胆な動きだ。メリーランド州のアンドリュース基地で撮影(2025年 ロイター/Nathan Howard)

[ロンドン 15日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領がロシアの輸出品を購入した国々に100%の関税を課すと脅しをかけたのは、彼らしい大胆な動きだ。ロシア経済を支えている国々、特に中国とインドを標的にすることで、プーチン・ロシア大統領にウクライナとの停戦合意を迫るという発想だ。だが実際に関税を実行すれば、物価上昇を通じて米国に跳ね返ってくる。より良いアプローチは、ロシア産原油に制裁を科すことだ。

トランプ氏の対ロシア強硬姿勢は、この2カ月で強まってきた。この間プーチン氏はウクライナ、特に首都キーウ住宅地への爆撃を激化した。西側諸国による対ロシア制裁にもかかわらず、ロシア経済は予想されたよりも底堅く推移している。これは主に中国とインドへの石油輸出を継続しているおかげだ。エネルギー・クリーンエア研究センター(CREA)によると、6月だけでもインドはロシア産原油を36億ユーロ相当、中国は35億ユーロ相当それぞれ購入した。

この供給を遮断することが戦争終結の鍵となる。しかしトランプ氏は、ロシア産原油の買い手だけでなく米国自体にも打撃を与える可能性の高い「2次関税」という粗暴な手段に出ようとしている。問題は、中国とインドがロシア原油の最大の買い手であり、2022年12月から25年6月末までに同原油の約85%を購入する一方、両国が米国の主要な貿易相手国でもある点だ。中国製の電子機器やインド製の医薬品に100%の関税を課せば、両国経済に打撃を与えるだけでなく、米国の消費者物価を押し上げる。さらに悪いことに、報復措置も招きかねない。

そこで効果を発揮する可能性があるのは、ロシアと取引する企業を標的とした2次制裁だ。米政府は、ドル建ての国際決済システムを通じてインドと中国に圧力をかけることができる。これには前例があり、筆頭は対イラン制裁だ。こうした措置は、厳格に標的を絞るとともに、他の同盟国も外交的圧力に加われば、銀行、保険会社、運輸企業などがロシアの石油取引を助けるのを抑止しつつ、中国もしくはインドとの全面的な経済戦争を回避できる可能性がある。

極めて重要なのは、これがロシアを締め付けることだ。日量500万バレルというロシアの原油輸出に直接打撃が及ぶだろう。トランプ氏には原油価格の下落という味方もある。石油輸出国機構(OPEC)が今年の減産措置を解除しつつあるため、原油価格は1バレル当たり65ドル前後まで下落している。

今のところ投資家はトランプ氏の計画に半信半疑だ。同氏は関税に50日の猶予期間を設けており、「相互関税」で見られた彼の戦術に照らせば、この期間は延長される可能性もある。原油先物価格は14、15の両日に下落した。トランプ氏が警告を真に受けてほしいのであれば、実際に痛手をもたらす部分に圧力をかける必要があるだろう。

Bar chart showing the countries that bought Russia’s fossil fuels after EU bans

●背景となるニュース

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(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

Yawen focuses on European energy and luxury companies, commodity markets, and real estate as a columnist for Reuters Breakingviews in London. Previously, she was a columnist with Breakingviews in Hong Kong, covering a broad spectrum of topics concerning the Chinese economy, financial markets, and regional companies. She initially joined Reuters News as an economics correspondent in 2016. She earned the title of Reuters’ Journalist of the Year in 2023 in the commentary category.

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