ロシアのウクライナ侵攻4年 埋もれる地元の声
ドローンによる攻撃を受けた住宅街を歩く住民。後方は現場を調べる警察官と焼けたトラック。周辺では八つの民家と多くの車が破壊された=ドネツク州スラビャンスクで2025年8月20日、写真家の尾崎孝史さん撮影
開戦から4年近く、ウクライナをめぐる停戦交渉は難航している。
常に懸案事項になっているのが東部ドネツク州の扱いだ。州の北部20%ほどのウクライナ統治地域に残る住民は約20万人。彼らの思いはどうなのか。
集中爆撃があった翌朝、スラビャンスクの住宅地に向かった。
2014年のドンバス紛争で、親ロシア派武装勢力によって最初に占領された街だ。現在、親ロシア派住民が最も多いという。
近隣住民に話を聞こうとビデオカメラを向けたところ、クモの子を散らしたように家に戻った。次の日に足を運ぶと、焼けた民家から物を運び出す兵士たちの姿があった。
ウクライナの前線地域では、空き家になったところに分散して駐屯する部隊が多い。そのため、ロシア軍にあらゆる施設への攻撃を正当化させ、住民は危険と隣り合わせの状況が続く。
昨年の秋には高速道路や線路も攻撃を受け、ドネツク州に列車は来なくなった。しかし住民は、それらにまつわる不安や不満を表立っては口にしづらい。
住民が親ロシア的志向を抱く理由の一つを、マリウポリの元クレーン操縦士、ナターシャ・ティマコバさん(55)はこう話す。
「ロシアが占領したマリウポリでは公共料金は安く、年金はウクライナより多くもらえます。私の場合、ロシアなら月額3万ルーブル(約6万円)、ウクライナなら4000フリブニャ(約1万5000円)なのです」
欧州最貧国の異名から脱却できぬまま、ロシアの軍事侵攻を受けたウクライナ。ドネツク州の経済は停滞し、現役世代の多くは避難した。その結果、年金に頼る高齢者の比率が40%ほどになった。
安全で暮らしやすい社会を保障してくれるなら、統治の仕組みにはこだわらない。ドネツク州で暮らして3年、筆者にはそんな本音がわかるような気がする。
旧ソ連時代の移民政策で移住してきたロシア語話者や、その子孫も多い。いつまでウクライナ防衛のための要塞(ようさい)地帯であらねばならぬのか。
ウクライナを欧州防衛の要と位置づける国々との協議を前に、地元の声は埋もれている。
写真・文 尾崎孝史(写真家)
(すべてウクライナで撮影)