スペイン、トルコ製第5世代戦闘機に関して予備的な政府間交渉を開始
スペインはトランプ政権の不確実性を嫌いF-35取得を断念しつつあり、トルコメディアは「スペインはKAANを導入するのではないか?」と噂してきたが、トルコ航空宇宙産業のデミログル最高経営責任者は「スペインへのKAAN売却に関する予備的な政府間交渉が行われている」と認めた。
参考:La turca TAI confirma contactos preliminares “de Gobierno a Gobierno” para la venta del caza de quinta generación Kaan a España 参考:Infografía: así es el Kaan, el caza furtivo turco de quinta generación por el que se ha interesado el Ejército del Aire
スペインはトランプ政権の不確実性を嫌い「空軍向けのF-35A」と「海軍向けのF-35B」の取得を断念しつつあり、フランスとドイツと共同開発する予定だった第6世代戦闘機(FCAS計画の有人戦闘機)も挫折しかかけているため「トルコとの密接な防衛協力を強化するのではないか?」と噂され、F-5BMの後継機にトルコ航空宇宙産業(TAI)が開発したヒュルジェットを選択、Airbusとスペイン企業15社で構成されたコンソーシアムはヒュルジェットのスペイン化(SAETA II)を行うことで契約が成立した。
出典:Airbus
さらにトルコメディアを中心に「スペインはF-35の代わりにKAANを導入するのではないか?」とも噂されてきたが、今月5日にトルコで開幕した防衛見本市=SAHA 2026でトルコ航空宇宙産業のメフメト・デミログル最高経営責任者は「スペインへのKAAN売却に関する予備的な政府間交渉が行われている」と認めた。
デミログル最高経営責任者は「スペイン空軍から第5世代戦闘機に関する正式要求(情報提供依頼に相当)を受け取った」「我々はスペインとの議論の初期段階にある」「この交渉は極めて戦略的な性質をもつため政府間レベルで進められている」「この協議の内容については政府間問題なので公に話すことはできない」「いずれにしても協議が行われていることは良いことだ」「ヒュルジェット(スペイン空軍の導入が決定した高等訓練機)の次はKAANになるだろう」と述べ、トルコ航空宇宙産業の他の幹部陣も「KAANについてスペインと協議している」と明かしている。
スペインのディフェンスメディア=Infodefensaは「KAANが備える技術的独立性は皮肉にも地政学的対立の産物だ」「米国は2019年にF-35プログラムからトルコを追い出し、KAANに搭載予定のF110エンジンに関しても輸出許可の保留で圧力をかけ続けている」「その結果としてトルコは国産エンジン=TF35000の開発に乗り出した」「この技術的独立性こそがスペインと交渉するトルコ側の最大の利点だ」「スペインもKAANの技術的独立性を高く評価している」と言及。
“スペインは第5世代戦闘機を必要としているが、米国の制約は望んでいない。逆にトルコ航空宇宙産業はKAANに関するすべての技術移転を提示している。我々が提示しているような規模で技術移転を行う国や企業は、他には存在しない。これこそがKAANの最大のポイントだ。スペインが目指しているのも完全な技術移転を伴う契約の締結だ。これはブラックボックスが多いF-35ではおよそ不可能な条件だ。今後はヒュルジェットと同じようにスペイン国内でKAAN導入に意欲のある現地企業のコンソーシアムを組織することにある”
出典:Turkish Aerospace Industries
トルコ空軍は米国製エンジン=F110を搭載するKAAN Block10(20機)を、インドネシア空軍もトルコ製エンジン=TF35000を搭載するKAAN Block20(48機)を発注し、前者は米国の国際武器取引規制(ITAR)によって輸出制限があるものの、後者はエンジンを含む米国製技術を排除したITAR Freeバージョンになる予定だ。
KAANが第5世代戦闘機を代表するF-35に匹敵するのかどうかは謎だが、トルコ航空宇宙産業はKAANの位置づけについて「トルコ空軍はF-35であろうとタイフーンであろうと一定レベルの能力と即応性を維持しなければならないが、50年後や100年後まで国の独立を維持するには自前の防衛装備品をもつ必要がある」「国産エンジンを開発することでKAANのITAR規制を出来るだけ除外することが重要だ」「ITAR Freeを達成できればプラットフォーム輸出における自由裁量権を獲得できる」と述べている。
Gücümüz teknoloji, odağımız gelecek. ✈️#SAHA2026’nın dördüncü günü Cumhurbaşkanımız Sayın @RTErdogan’ın iştirakleriyle tamamlandı.
Dünyaya açılan kanatlarımız, gökyüzünün geleceğine yenilikçi, stratejik ve hep daha güçlü rotalar çiziyor.
🗓️5-9 Mayıs 📌Stant: 5K-10
📍İstanbul… pic.twitter.com/I9dDmK2NKf
— Türk Havacılık Uzay Sanayii (@TUSAS_TR) May 9, 2026
この話をより噛み砕くと「トルコが安全保障に基づく独立した主権を維持するには武器主権が確保された自前の防衛装備品が必要」「代替品が市場で入手できる米国製部品・技術の国産化は後回しでもいいので、代替品が市場で入手できないエンジンを含む米国製部品・技術の国産化を進めてITAR規制をクリアし、武器主権、データ主権、統合の自由、輸出の自由を確保することが重要」となり、トルコは地域大国から大国になることを目指しているため、KAAN開発で最も重要なのはF-35と同等の第5世代戦闘機を作ることではなく「米国の支配を受けない(米国依存を引き下げる)武器システムの実現」だ。
F-35を調達できる韓国が第4.5世代戦闘機のKF-21を開発するのも同じ理由で、自主国防において武器主権、データ主権、統合の自由が確保されたプラットフォームがなければ何も始まらず、あれはダメだ、これはするな、そんなことは許可できないという米国製プラットフォームに不満をもつ国が多く存在するため輸出の自由も重要になってくる。
出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Matthew Arachik
つまり、スペインが高く評価している「KAANの技術的独立性」とは「武器主権、データ主権、統合の自由が確保できる」「技術移転が可能」「米国の支配を受けない」を指しており、米国製兵器離れの本質的な部分もトランプ政権の不確実性ではなく、これまで空想上の懸念だった「米国製システムの制約」や「一方的すぎる対外有償軍事援助の有利な立場や権利」を政治利用してくると認識したためで、もはや次の大統領に誰がなろうが「安全保障を米国製システムだけに依存しない」という流れは変わらないだろう。
ちなみに日本の安全保障は二国間の日米安保に依存し、しかも「米国は武力攻撃を受けた日本を防衛する義務」があっても「日本が米国を防衛する義務」はなく、NATOのような集団安全保障の枠組みにも馴染みが薄いため、NATO加盟国の再軍備や武器調達について「ロシア国境から遠く離れた加盟国は楽でいい」「島国の英国がどうして航空戦力より砲兵戦力に大金を投資するのか理解できない」と考えるかもしれないが、NATOは第5条発動時に必要なNATO全体の能力要件(非公開)を策定し、それに応じて各加盟国に必要な能力と第5条発動時に提供しなければならない戦力を割り当てている。
出典:NATO
ロシア国境から遠く離れたスペインや周りを海に囲まれた英国が砲兵戦力に大金を投資するのも「自国単体の安全保障要件」ではなく「NATOの第5条発動時における安全保障要件」を満たすための行動であり、安全保障関連の話題をネタとして「ロシア国境から遠く離れた加盟国は高性能なF-35なんて必要ない」と揶揄する消費のしかたも否定はしないが、ネタであると自覚していないなら「自身が無知である」と言いふらしているようなものだ。
多くの日本人が考える「アジア版NATO構想」も同じで「中国の脅威にアジア諸国が共同で対処しよう」と日本都合=台湾海峡や尖閣諸島での武力衝突を想定して考えがちだが、仮にアジア版NATO構想が成立したとして「ベトナムと中国がスプラトリー諸島で武力衝突した場合に日本は武力を行使できるのか」「インドと中国が未確定の国境線で武力衝突した場合に日本は武力を行使できるのか」「日本の国益から遠い中国の脅威に血を流せるのか」「自国の安全保障要件以上の投資が必要になる」という視点が欠けている。
出典:NATO
石破元首相が提唱したアジア版NATO構想に海外から冷めた反応しかないのも「守ってもらう」という意識が強すぎて「相互防衛義務の互恵性」が欠如しているからだ。
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※アイキャッチ画像の出典:Turkish Aerospace Industries