中国が「核融合大国」へ爆進中 米国からのヘゲモニー移行進める可能性も
中国にとって核融合は、スタートアップのプロジェクトではなく、国家の利益と安全保障に関わるものである。中国の科学者は核融合関連の分野でほかのどの国よりも多くの特許を取得しており、この分野の博士号取得者も最も多い。中国は核融合炉に必要な重要鉱物(たとえば磁石用)の世界最大の精錬・輸出国でもあり、外部の勢力がその進歩を遅らせることもできそうにない。他方、中国の隣には格安の「ガソリンスタンド」、つまりロシアがあり、中国はロシアの対ウクライナ戦争への支援と引き換えに、そこからあらゆる化石燃料を必要なだけ調達できる。中国からの支援には、ロシアの兵器産業が必要としている重要鉱物も含まれる。 核融合エネルギーやその他、中国が優位にある技術は、米国のヘゲモニーを終わらせるのに十分だろうか。 英国の歴史家ポール・ケネディは1987年の著作『The Rise and Fall of the Great Powers(邦訳・大国の興亡)』で、強大な国家の相対的な成功(と失敗)の理由の説明を試みている。ケネディによれば、こうした国家の盛衰は「長い目で見れば、生産力および歳入調達能力と軍事力との間に非常に強い相関関係があることを示している」という。 根本的なことを言えば、国家は経済的繁栄と安全保障戦略のバランスをとる必要がある。そのどちらにとってもきわめて重要なのが、技術のブレークスルーだ。イノベーションは富を生み出し、その富によって国家は国防に投資し、戦争に勝つことができる。国防への投資が不十分であれば、その国は他国に対して脆弱になる。一方で、過剰な拡張や国防への過度な支出は経済を疲弊させ、かえって強力な軍隊を維持することがままならなくなる。 ここで、ある大国、すなわち中国が、米国に匹敵する軍事力と、ほぼ無限のエネルギーを供給する核融合炉を手にした世界を想像してみよう。もし中国が自国の核融合技術をライセンス供与できるようになれば、世界に港湾や軍事基地を築いたり、消費者市場でシェアを広げたりしていくうえで、どれほど大きな影響力を持てるようになるだろうか。 中国がエネルギー、産業、AI、モビリティー、さらには軍事でも米国を凌駕していった場合、中国は米国からヘゲモニーを奪う立場に立つ。もちろん、中国がその優位性を自ら台無しにする可能性もあるだろう。独裁体制は往々にして、国内の不満への対応を誤り、現実を偽り、回避できるはずの失敗を重ねるものだ。 いずれにせよ、中国の興隆は避けられない。一方、米国とその同盟諸国の自滅的な衰退は避けられないわけではない。この先、衰退の道を歩むかどうかは、社会がリソースをどのように費やし、どんな未来を思い描くかの選択にかかっている。
Wal van Lierop