Steamの開発元Valveの手数料収入が約10年で20倍に、社員一人あたりの営業利益は5億円超になったのは「独自の企業文化」のおかげだという指摘
元Microsoftの社員であるゲイブ・ニューウェル氏が立ち上げたゲーム開発企業のValveは、「Half-Life」シリーズや「Counter Strike」シリーズなどの名作タイトルを開発すると同時に、PCゲーム販売プラットフォーム兼ゲームランチャーの「Steam」を運営していることで知られています。PCゲーム販売市場で圧倒的なシェアを占めるSteamによって、Valveにはばく大な収益がもたらされているとイギリス経済紙のFinancial Timesが報じています。
Valve conquered PC gaming. What comes next?
https://www.ft.com/content/f4a13716-838a-43da-853b-7c31ac17192cValve's reported profit-per-head from Steam commissions is out there, and at $3.5 million per employee it makes Apple and Facebook look like a lemonade stand | PC Gamer
https://www.pcgamer.com/gaming-industry/valves-reported-profit-per-head-from-steam-commissions-is-out-there-and-at-usd3-5-million-per-employee-it-makes-apple-and-facebook-look-like-a-lemonade-stand/ Steamはもともと、2000年代初頭に問題となっていたPCゲームの海賊版対策として開発され、ゲームのアップデート、海賊版対策、チート防止を一つのプラットフォームに統合したものでした。これがゲーマーにとっての利便性となり、Steamは瞬く間にPCゲーム市場のデフォルトプラットフォームへと成長し、市場全体の約70%を占める支配的な地位を確立することで驚異的な収益性を生み出しています。2024年にインディー開発者のWolfire Gamesとの訴訟文書が流出したことで、Steamの手数料収入は2021年に約20億ドル(約2900億円)に達し、営業利益は約12億ドル(約1730億円)から13億ドル(約1880億円)と推定されることがわかりました。
Steamを運営する「Valve」の従業員は2021年時点でわずか336人と少数精鋭で平均年収は2億円に上るとの試算 - GIGAZINE
特筆すべきは、その利益を非常に少数の従業員で生み出している点で、2021年時点でValveの全従業員数は336人であり、これを基に計算すると、従業員一人当たりの利益はSteamの手数料だけで約350万ドル(約5億円)にもなります。 さらに、Steam担当と管理部門の従業員に限定して計算すると、一人当たり1140万ドル(約16億4000万円)という驚異的な数値が算出されます。この数字は、2018年時点でのFacebookやAppleといった他のテック大手だけでなく、ウォール街の金融企業さえも大きく凌駕します。 以下の図は、Steamがゲームの売上から得る手数料収入(100万ドル単位)を棒グラフで、営業利益率を緑の折れ線グラフで、粗利率を赤い折れ線グラフで示しています。手数料収入が爆発的に増加し、高い営業利益率の維持と向上が組み合わさり、Valveにばく大な利益が生み出されていることがわかります。特に2020年以降の急成長は、新型コロナウイルスのパンデミックによるゲーム需要の世界的な高まりを反映していると考えられます。Financial Timesは「teamは適切なタイミングで適切な場所に登場し、すぐにPCゲーマーがゲームをダウンロードして管理するための標準的なプラットフォームになった」と分析しています。
さらにFinancial Timesは、この成功を支える背景には「Valveの独特な企業文化」もあると主張しています。Valveは「フラット」な組織構造を採用しており、公式な管理職や階層が存在しないとされており、従業員は自律的にプロジェクトを主導し、協力したい相手の近くへ机ごと移動して作業を進めます。一方で、この自由な文化は、新作ゲームの開発ペースが極めて遅いという欠点や、同僚同士で互いを評価して報酬を決める「スタックランキング」制度が短期的な成果を重視させるという課題も抱えています。 また、Valveはその自由放任主義的な姿勢から、いくつかの論争にも直面しているとFinancial Timesは指摘。競合他社からは反競争的であるとして独占禁止法に関する訴訟を起こされており、また、Steamのフォーラムが過激主義の温床になっているとの批判も受けています。これに対し、Valveは「違法なものや単なる荒らし以外」は基本的にすべて許可するというコンテンツポリシーを掲げています。
こうした企業文化を築いたのはリバタリアンとして知られる創業者のニューウェル氏ですが、近年オフィスにほとんど姿を見せず、船上で生活していると報じられています。同時に、脳とコンピュータを接続するブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)技術に強い関心を持ち、新たなスタートアップ「Starfish Neuroscience」を設立しました。ニューウェル氏が経営から退いた場合、Valveが大手テック企業にとって魅力的な買収対象となることは間違いないだろうとFinancial Timesは推測しました。
「Valveが成功したのは独自の企業文化と時流に乗ったおかげ」とするFinancial Timesの見解に対して、ソーシャルニュースサイトのHacker Newsには「経済アナリストレベルの間違い」と批判するコメントがついていました。投稿したユーザーは「Microsoftを含む他の大手企業が利益の大きいコンソール(家庭用ゲーム)市場に注力するためにPCを見捨てた時に、ValveはPCゲーミングを救った存在であり、単に時流に乗ったのではない。最近になってPC市場に戻ってきた他の大手企業こそ、自社のコンソールの利益のためならPCゲーミングを再び破壊しかねない日和見的な存在である」と述べています。
・関連記事 Steamのデジタル著作権管理(DRM)はValve役員の甥っ子がゲームを勝手にコピーしたことがきっかけで導入された - GIGAZINE
Valveが「Team Fortress 2」のゲームコードをリリース、誰でもTeamFortress 2をベースにしたゲームを構築できるように - GIGAZINE
Valveが「Counter-Strike 2」でゲーミングキーボード搭載の「スナップタップ」機能を使用することを禁止 - GIGAZINE
LinuxのソフトウェアエンジニアがValveをベタ褒め - GIGAZINE
名作FPS「Half-Life」のおよそ15年ぶりとなる新作「Half-Life:Alyx」をValveがフルVRゲームとして発表 - GIGAZINE