チェコ下院選、バビシュ前首相率いるポピュリスト政党が第1党に
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チェコで3~4日に下院選挙が行われ、富豪のアンドレイ・バビシュ前首相が率いるポピュリスト政党「ANO2011」が第1党となった。しかし、単独過半数には届かなかった。
暫定結果によると、ANOは得票率が35%をわずかに下回り、定数200の下院で80議席を獲得。2021年の前回選挙の72議席から増やしている。
現職のペトル・フィアラ首相が率いる右派連合「SPOLU」は52議席で2位だった。投票率は69%と、前回から上昇した。
2017~2021年に首相を務めたバビシュ氏は、新たな連立政権の樹立に向けた協議を主導するよう、大統領から要請される見通しだ。
バビシュ氏は、プラハ郊外にあるANO本部で、歓声を上げる支持者らに対し、「これは歴史的な成功だ」と述べた。
「これは私の政治人生の頂点だ」とバビシュ氏は述べたうえで、自身とチームが今後、チェコを「欧州連合(EU)の中で最も住みやすい国」にするために取り組むと付け加えた。
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今回の選挙結果に大きな驚きはなく、ANOが首位に立つことに疑いの余地はほとんどなかったとはいえ、依然として多くの疑問が残されている。
バビシュ氏はすでに、反グリーン・ディール政策を掲げる「モトリスト」や、反移民を訴える日系人実業家トミオ・オカムラ氏が率いる政党「自由と直接民主主義(SPD)」と協議を開始している。どちらもEU懐疑派の右派少数政党で、今回の選挙では得票率5%を超えた。
ANOが議会で過半数を有する連立政権を樹立するには、両党との連携が必要となる。他の政党がバビシュ氏との協力に応じる可能性は低いとみられている。
しかしバビシュ氏は勝利演説の後、正式な連立を組むのではなく、ANO単独で政権を担いたい意向を示した。
ANOと最も共通点があるのはモトリストだ。両党はすでに、欧州議会で「主権重視」会派「欧州の愛国者」に所属している。同会派は昨年、バビシュ氏がハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相や、オーストリア議会の第1党である極右・自由党のヘルベルト・キクル党首と設立した。
ANOは、EUの排出目標に対するモトリストの懸念を共有しており、これらの目標を修正または全面的に拒否する方針を掲げている。
両党は、よりクリーンなエネルギーのために、チェコの各家庭がより大きな経済的負担を負うことに断固として反対している。また、2035年以降のガソリン車およびディーゼル車の新車販売を禁止するEUの方針にも反対している。
一方、SPDとの関係は、より緊張をはらむ可能性がある。
SPDは今回の選挙に、複数の極右少数政党との正式な連携のもとで臨んでいた。そのため、獲得した議席の一部をそれらの政党に譲渡しなければならない。SPDを率いるオカムラ氏は、所属議員らを完全に掌握していない可能性があり、これは連立政治において常に破綻の要因となる。
また、バビシュ氏は、EUまたは北大西洋条約機構(NATO)残留の是非を問う国民投票の実施を認めることを、明確に否定している。国民投票は、SPDにとって主要な政策課題の一つだ。
バビシュ氏は選挙戦の終盤、反ウクライナ的な言説を強調し、現在の中道右派政権が「チェコの母親には何も与えず、ウクライナ人にはすべてを与えている」と非難した。
しかし、ウクライナからの難民を一括して送還するというオカムラ氏の主張は、支持を得られない可能性が高い。
それでも、ウクライナの戦争努力に対するチェコの軍事支援は、バビシュ政権の下で大きく変化する可能性が高い。
バビシュ氏はすでに、ウクライナに対する弾薬供与イニシアチブを廃止することを公約している。このイニシアチブは、ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始した2022年以降、ウクライナに350万発の砲弾を供給してきた実績がある。
バビシュ氏は、この計画には透明性が欠けていると主張しているが、この枠組みを立ち上げたチェコ政府の関係者らは、むしろ透明性がないからこそ機能しているのだと述べている。
このイニシアチブでは、チェコの武器ディーラーが国際的な人脈を活用し、ウクライナ向けの砲弾を世界市場で調達している。その資金の大部分は、EUとNATOのパートナー諸国から拠出されている。一部の製造業者はロシアと関係を持つ国に所在しているが、取引はチェコの業者を通じて行われるため、そうした関与は非公開のままとなっている。
バビシュ氏は、この計画をNATOの枠組みに移管すべきだと主張しており、4日にも改めて、チェコの武器ディーラーがこの計画から巨額の利益を得ていると非難した。
一方で同氏は、ゼレンスキー大統領との交渉には何の問題もないと述べた。
また、自身の政権下でチェコがEUおよびNATOの信頼できるパートナーではなくなるのではないかという西側の懸念を一蹴し、自分が極端な政党から距離を置いているように見えるのは、そうした懸念が不要なことの表れだとした。
バビシュ氏は米紙ニューヨーク・タイムズの記者に対し、「あなたたちの問題は、チェコのジャーナリストが書いたうそを、そのままコピーしていることだ」と、英語で答えた。
「私はトランプ氏と5回話した! 私はペンタゴン(米国防総省)にも行った。FBI(米連邦捜査局)にも行った。CIA(米中央情報局)の長官とも話した」と、バビシュ氏は、自身の第1期政権時代について語った。この時期は、トランプ米大統領の第1期と重なっていた。
「私は首相だった。我々はかつて政権を担っていた。そして、我々は素晴らしい成果を上げた」