イスラエル軍の元法務トップを逮捕、パレスチナ人拘束者への「虐待映像」の流出めぐり
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イスラエルで、軍兵士らが基地で拘束しているパレスチナ人を激しく虐待している場面とされる映像が今年夏に流出し、大きな政治問題となっている。この流出をめぐり、軍の元法務トップが3日までに逮捕された。
逮捕されたのは、イスラエル国防軍(IDF)のイファト・トメル=イェルシャルミ少将。映像流出の責任を取るとして先週、軍法務担当のトップから退いた。
2日になり、少将が行方不明と報じられ、安否を心配する声も出た。警察はテルアヴィヴ北部の海岸地域で数時間にわたり、大規模な捜索を実施した。
その後、少将は健在でいるのが発見され、警察に拘束されたとされる。
問題の映像は、昨年8月にイスラエルのニュース番組で放送された。イスラエル南部のスデ・テイマン軍事基地で予備役兵らが、拘束した人物を暴徒鎮圧用の盾で囲んで視界を遮り、殴打したり鋭利な物で直腸を刺したりした場面とされる。
拘束されていた人物は重傷を負い、手当てを受けたとされる。
この映像が公になると、国内の右派と左派で激しい対立が起きた。
右派は、映像の流出は軍に対する中傷だとし、反逆行為に等しいと非難。昨年7月にあったとされる虐待をめぐって、軍警察が予備役兵11人に事情を聴くためにスデ・テイマン軍拘束施設を訪れた際には、極右の抗議者らが施設に押し入り、予備役兵らへの支持を表明した。抗議者には、現在の連立政権内の少なくとも3人の議員が含まれていた。
一方の左派は、この映像について、イスラム組織ハマスによる2年前のイスラエル攻撃以来、相次ぎ表面化している、拘束したパレスチナ人への虐待に関する複数報告を裏付ける具体的な証拠だと主張。映像の流出を可能にしたトメル=イェルシャルミ少将の判断について、職責を全うした唯一の行為だとしている。
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こうした対立が続くなか、映像の流出をめぐって先週、刑事事件の捜査が開始された。トメル=イェルシャルミ少将は、捜査の間は休職とされた。
イスラエル・カッツ国防相は10月31日、少将について、復職は認められないと発言。その直後、少将は軍法務トップから退いた。辞表の中で少将は、「軍の法執行当局に対する誤ったプロパガンダに対抗するため、資料をメディアに流すことを私が承認した」とし、全責任を自分が負うとした。
「誤ったプロパガンダ」とは、一部の右派政治家らが、拘束したパレスチナ人に対する激しい虐待があったというのはでっち上げだと主張したことを指しているとされる。
少将は辞表で、「拘束した人物に対する暴力行為があったと合理的に疑われる場合は、いつでも調べるのが私たちの義務だ」とも述べた。
少将の辞任後、カッツ国防相は、「IDF兵らによる残虐行為があったとする血の中傷を広める者は、軍服を着る資格がない」と少将を激しく非難した。
ベンヤミン・ネタニヤフ首相も2日、国防相に同調。拘束したパレスチナ人への虐待疑惑は「イスラエルが建国以来経験した中で、おそらく最も深刻な広報攻撃だ」と述べた。
その数時間後、少将が行方不明になったとイスラエルのメディアが報じ始め、政治スキャンダルが悲劇に転じたと懸念する声が沸き起こった。
しかし、警察はその後、ヘルツリーヤの海岸地帯で、「無事で健康」な状態でいる少将を発見したと発表。さらに夜、「情報漏えいおよびその他の重大犯罪」の疑いで2人を逮捕したと明らかにした。現地メディアは、この2人がトメル=イェルシャルミ少将と元軍検察トップのマタン・ソロモシュ大佐だと報じた。
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イスラエルで拘束されているガザ出身のパレスチナ人の処遇をめぐっては、国連調査委員会が昨年10月、報告書を公表。子どもを含む何千人もが「広範かつ組織的な虐待、身体的・心理的な暴力、性的・ジェンダーに基づく暴力を受けている」とし、そうした暴力は「拷問という戦争犯罪や、人道に対する罪およびレイプなどの性的暴力という戦争犯罪に相当する」とした。
イスラエル政府は、拘束している人たちには虐待も拷問もしていないと主張。「国際的な法的基準を完全に順守している」としている。また、虐待などの訴えがあればすべて徹底的に調査してきたとしている。
映像が流出したスデ・テイマン軍拘束施設での虐待事件では、予備役兵5人が被拘束者への加重虐待と重傷を負わせた罪で起訴された。5人は罪状を否認している。名前は明かされていない。
一方、虐待を受けたとされるパレスチナ人については、イスラエルとハマスとの人質および拘束者の交換の一環として10月に解放されガザに戻っていたことが、3日に明らかになった。