2万年前のケブカサイの角を発見、1.6m超は史上最長のサイの角、重さ約9kgでしかもメス(ナショナル ジオグラフィック日本版)
2024年の夏、地球上で最も寒い定住地として知られるロシア、サハ共和国(ヤクーチア)の奥地で、地元のハンターで化石収集家のロマン・ロマノフ氏が解けた永久凍土から頭骨と湾曲した巨大な角を発見した。首都ヤクーツクにあるマンモス博物館は1万9700年前のケブカサイ(Coelodonta antiquitatis)と特定し、現生種、絶滅種を問わず記録が残る全てのサイの角を調べたところ、約165センチの長さはこれまでで最長と結論した。論文は2025年9月12日付の学術誌「Journal of Zoology」で発表された。 【関連写真】ケブカサイの角を持つ研究者、巨大さが一目瞭然 今回報告された角は、過去に最長とされていた南アフリカのシロサイの角より5センチほど長い。重さはおよそ9kg。ケブカサイが生きていた時の体重はSUV車ほどあり、毛むくじゃらの毛皮に覆われていたはずだ。 「この記録破りの角を調べることで、いかに多くの異なる結論を導き出せるかに私たちも驚きました」と話すのは、ロシア科学アカデミーの動物学者で、今回の論文を著したルスラン・ビライエフ氏は言う。 角の主成分であるケラチンというタンパク質に刻まれた成長輪からは、このサイが少なくとも40年は生きていたことが分かった。アフリカの野生で暮らすサイも通常40歳くらいまで生きることが研究から分かっている。 「氷河期という過酷な環境の中でも、ケブカサイが現生種と同じくらいの寿命を持っていたことを今回初めて明らかにできました」と、ビライエフ氏は言う。
また頭骨の形から角の持ち主はメスだと考えられる。「現生種でも見られる特徴です。記録的な長さの角を持つのはメスです」とビライエフ氏。 しかしケブカサイの場合、角のサンプルが少なく、科学者たちもメスの角は常にオスよりも長かったと言い切れないのだろうと、ドイツ、ゼンケンベルク第4紀古生物学研究ステーションの古生物学者ラルフ・ディートリック・コールケ氏は言う。なお氏は今回の研究には参加していない。 「判断するには材料が少なすぎるのです」 ケブカサイの場合、角の長さは平均して102センチほど。次に長い角を持つシロサイ(平均して58センチほど)の倍近い長さだ。 ケブカサイの巨大な角には一風変わった使い道があったようだ。角の下側が平たくなっていることが多い。これは凍りついた地面に角を繰り返しこすりつけて草を削り取って食べていたためだろうと、コールケ氏は言う。 現生種と同様、ケブカサイも角を武器に使っていたと考えられる。コールケ氏によると、これまで発見された角の中には、中央部に他のサイと角をぶつけ合った時にできたと考えられる切れ込みがあるものがある。 ケブカサイ同士がぶつかり合う壮大な姿は、フランスのショーベ洞窟にある3万年前の壁画の中に永遠にとどめられている。多くのサイの仲間たちと同様、ケブカサイには頭のすぐ上に2本目の短い角がある。これは闘いの際、脳を保護するためにあったのだろうと、コールケ氏は付け加えた。