だから「やりたいことをやらず、ただ悩む人」が続出する…本当にやりたいことを知るための"YES・NO質問" 心の安定につながるから「やりたいと思いたいだけ」というパラドクス

自分が本当にやりたいことを、見極めるにはどうすればいいか。心理セラピストの杉田隆史さんは「人はやりたいと言って、それをやらないことで心を安定させることがある。本当にやりたいことかどうかを知るためには、『はい』か『いいえ』で答えられるこの質問を自分自身に投げかけるといい」という――。

※本稿は、杉田隆史『「なんだか生きづらい」がスーッとなくなる本』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Wipada Wipawin

※写真はイメージです

「悩み」が心の安定に役立っているケースも

私の知人に、飲食店に勤務している人がいます。

彼は私に会うたび、いつも「独立して自分の店を持ちたい」と夢を語ります。ところが、10年以上も前からそんな話を聞かされているのに、彼の独立の計画は一向に進んでいる気配がないんです。

こんなふうに、「~さえできれば、人生が大きく変わるのに」と自分でわかっていながら、それに対して、何年も行動を起こしていないことってありますよね。

こういうのって不思議ですよね。自分が「やりたいこと」のはずなのに、しかも「人生が大きく変わる」とわかっているはずなのに、やろうとしないなんて。

でもそういう行動の奥には、意外な心理が隠れています。

じつはこういうケースでは、「悩みが希望になっている」んですね。

たとえば私の知人の例であれば、彼が独立に実際にチャレンジして、結果「独立できない」ということがハッキリわかってしまったら、もう「希望」が持てなくなってしまうわけです。

でもやらないでいれば、ずっと「希望」を持っていられます。告白しなければフラれないみたいな感じと言えばいいのでしょうか。

ということは、彼は「独立さえできれば」と悩んでいながら、じつは「やってしまって」その「悩み」が奪われることを、心の奥では恐れていたりするんです。それは同時に「希望」を奪われることにもつながるわけですから。

もし、「独立さえできれば」という「悩み」がなかったら、不満だらけの毎日をやりすごせなかったんだと思います。おかしな話ですが、「悩み」が心の安定に役立っていたんですね。


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実際のカウンセリングの現場でも、自分の「やりたいこと」を勘違いしている人って多いんです。

たとえば、私の知人と似たようなケースですが、「会社を辞めて独立したいのに、全然準備が進んでいない」と悩んでいる人に、私が、「もし今の会社の人間関係が良かったらどうしますか?」なんて聞いてみると、本人は、「独立しないです」なんて答えることがあります。

ということは、この人の「本当にやりたいこと」は、「独立すること」ではなくて、「良い人間関係の中で働きたい」ってことなんですよ。それなのに、本人が「やりたいこと」を「独立すること」だと勘違いしているんです。

本人は、「独立したい」と本当に思っているわけではないですから、当然独立の準備も進みません。おそらく「独立する」というのは、会社の人間関係の気まずさから逃れるために、無理やり作り出した目標なのでしょう。

杉田隆史『「なんだか生きづらい」がスーッとなくなる本』(三笠書房)

でも、そんなふうに「やりたいこと」を勘違いすると、本来その人は、人間関係を良くすることだけを悩んでいればいいのに、「(本当はやりたくもない)独立の準備が進んでいない」という、よけいな悩みまで抱えてしまうことになります。

思えば私も、「やりたいと思いたいだけ」のことを「これがやりたいことだ!」と勘違いすることで、ずいぶん遠回りしてしまったような気がするんです。

あなたの「やりたい」ことは、「本当にやりたいこと」ですか?

「何か」から逃れるために、無理やり前向きな目標を作っていませんか?

──「悩み」は「希望」にもなりうる。

  • 1970年東京都生まれ。高校の頃から漠然とした生きづらさに悩み、「心の病気じゃないけどツライ」という状態を20年間続けて、引きこもりも経験。2006年に心理セラピーと出会い、初めて生きづらさから解放されたことをきっかけに、日本における第一人者たちからさまざまな心理セラピーの技法を学ぶ。自らの経験から、「心の病気じゃないけどツライ」という人の受け皿の必要性を感じ、「悩んでいない人の悩み相談」という看板を掲げて、心理セラピーの個人セッション、ワークショップを開催。クライアントは日本国内はもちろん、海外からも訪れ、これまで5000人以上の悩みを聴き、セラピーを行なってきた。

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