量子コンピューターとして最大の6100量子ビットアレイ構築にカリフォルニア工科大学研究チームが成功、中性原子方式で大規模な「誤り耐性」への道筋に光明
by Caltech/Gyohei Nomura 実用的な量子コンピューターを実現するには「誤り耐性」のために100万個規模の量子ビットが必要だと考えられています。これまで、量子ビットアレイは数百個のレベルにとどまっていましたが、カリフォルニア工科大学の研究チームが6100個の量子ビットアレイ構築に成功したことを明らかにしました。
Caltech Team Sets Record with 6,100-Qubit Array - www.caltech.edu
https://www.caltech.edu/about/news/caltech-team-sets-record-with-6100-qubit-arrayDevice with 6100 qubits is a step towards largest quantum computer yet | New Scientist
https://www.newscientist.com/article/2497439-device-with-6100-qubits-is-a-step-towards-largest-quantum-computer-yet/ 一般的なコンピューター(古典コンピューター)の扱うビットが「0か1かどちらかの状態」なのに対して、量子コンピューターの量子ビットは「重ね合わせ」によって、同時に「0であり1でもある」という2つの状態が存在し得ます。この「重ね合わせ」によって、量子コンピューターは古典コンピューターでは難しい複雑な計算をこなせる可能性を持ちますが、一方で、「重ね合わせ」はとても繊細な状態であり、ノイズ等の影響を受けて「デコヒーレンス」に陥ることが指摘されています。このため、いかに誤りを減らすかが大きな課題となっていて、実用的な「誤り耐性」を持つためには数十万から100万個規模の量子ビットが必要だと考えられています。 この構想の第一歩として、カリフォルニア工科大学の研究チームは、レーザーで格子状に閉じ込めた中性原子の量子ビット6100個からなる量子ビットアレイの構築に成功しました。 量子光学・原子物理学を専門とする京都大学大学院理学研究科の高橋義朗教授によると、量子コンピューターは大きく分けると「量子アニーリング方式」と「量子ゲート方式」に分けられるほか、量子ビットを構成する物理系の分類だと「超伝導方式」「量子ドット方式」「光方式」「中性原子方式」「イオントラップ方式」の5つが、精力的に開発が進められているとのこと。高橋教授も中性原子方式を研究していて、その特徴の1つとして、真空容器の内部にレーザー光で原子を閉じ込めるので、超伝導方式のような配線が必要なく大規模化に有利な点を挙げています。
【量子コンピューターの未来編】京大先生、質問です! 高橋義朗(理学研究科) - YouTube
今回、カリフォルニア工科大学の研究チームは、光ピンセットと呼ばれる高集束レーザービームを用いて、数千個のセシウム原子を格子状に捕捉しました。原子配列構築のため、レーザービームは1万2000本のピンセットに分割され、真空容器内で6100個の原子の保持に成功しました。
by Caltech/Endres Lab 大きな成果の1つは、大規模化しても品質が犠牲にならなかったという点です。今回、研究チームは6100個の量子ビットをおよそ13秒間にわたり「重ね合わせ」状態を維持したまま保持しました。13秒というのは、従来の類似配列に比べて約10倍という長さです。 また、個々の量子ビットを99.98%の精度で操作することにも成功しました。 以下は研究に携わったハンナ・マネシュ氏が、今回の研究を行った研究室と機器を紹介している動画です。
Inside the Endres Lab with a 6,100-Qubit Array - YouTube
マネシュ氏やエリー・バタイユ氏とともに研究に携わった野村尭平氏は「原子数を増やす大規模化は精度を犠牲にすると思われがちですが、我々の結果は、大規模化と精度の両立が可能であることを示しています。量子ビットは品質が伴わなければ意味がありません。今や、我々は量と質の、両方を手に入れました」と語っています。 主任研究者で、カリフォルニア工科大学物理学教授のマヌエル・エンドレス氏は「中性原子方式の量子コンピューティングにとって、画期的な瞬間です。大規模な『誤り耐性』量子コンピューターへの道筋が見えてきました。基盤となる要素が整っています」と述べています。
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