トランプ氏停戦にインドは怒り、パキスタンは祝福-今後に危険な禍根

インドとパキスタンの対立は、過去約50年間で最悪の戦闘に発展した。核戦争の危機すら懸念されたが、戦闘開始から4日後の10日、トランプ大統領が両国は「完全かつ即時の停戦」に合意したと宣言した。

  だが、インド政府高官の多くはトランプ氏の投稿に憤慨している。投稿は寝耳に水だったと、事情に詳しい関係者が明らかにした。関係者は非公表の情報だとして匿名を要請した。

  インド当局者を不快にさせたのは、緊張緩和に向けた米国の取り組みそのものではなかった。インドとパキスタンは互いの軍事施設を無人機(ドローン)やミサイルで攻撃し合い、1971年の戦争以来最も激しい戦闘を行う中でも、舞台裏では交渉が続いていた。

  問題は、モディ首相の存在を脇へと追いやり、カシミール問題を二国間の交渉を通じて解決するというインドの長年の方針をトランプ氏が無視したことだった。さらにインドにとって許せなかったのは、経済成長で自信を深める同国が宿敵のパキスタンと同列に扱われたことだ。

  モディ氏の強力な支持者の一人である右派系放送局の司会者、アルナブ・ゴースワミ氏は、この怒りを代弁した。「これはトランプ氏の典型的な越権行為だ。カシミールで起きたテロ行為と、その後に起きたことを、トランプ氏はどうして同列に扱えるのか。明らかに出過ぎた行為だ」とソーシャルメディアに投稿した動画で主張。この動画はインドで急速に人気化している。

  戦闘のきっかけとなったのは、インドが管理するカシミール地方のパハルガムで、観光客26人が殺害された事件だった。インドはパキスタンによる犯行だと非難する一方、パキスタンは関与を否定している。

観光客が犠牲になった犯行を非難し、ろうそくに火をともすカシミールの住民ら(4月23日、インド・スリナガル)

  金融市場はいかなる停戦であっても歓迎しそうだが、それが持続するかは定かではない。トランプ氏の発表からわずか数時間後、カシミールの事実上の国境となっている実効支配線を越えたドローンの攻撃があったと双方が報告。11日は停戦が守られている様子だったが、インドはパキスタン経済にとって死活的に重要なインダス川の水利用を定めた協定の復活をなお拒否している。同協定は数十年にわたり履行されてきたが、戦闘開始後にインドが一方的に停止した。

  また、停戦が成立した経緯自体が、今後の戦闘激化を引き起こす恐れもある。

  米国に対して怒りを感じ、今回の結果を敗北に等しいと感じているインド人は多い。それがモディ首相には、将来の攻撃に対して強力な反撃を求める圧力となっている。一方パキスタンでは、停戦合意のニュースが花火で祝われ、同国軍は勝者として称賛された。

  さらに懸念されるのは、今回の戦闘で従来のレッドラインが破られたことだと事情に詳しい当局者は指摘。これにより将来の衝突は事態の予測が難しく、制御しづらくなる。

  両国が領有権を争うカシミールにほぼ限定されていたこれまでの戦闘とは異なり、インド洋にまで伸びる国境線全域が今や攻撃対象で、主要都市近郊にある軍事施設もそれに含まれると、当局者らは述べた。より高度で殺傷力のある兵器が使用されるようになり、自爆型ドローンや中国製戦闘機は予想以上の効果を発揮した。

トランプ氏が発表した停戦を祝うパキスタン市民(10日、パキスタン・ハイデラバード)

  「次の危機はとりわけ危険なものとなる要素がそろっている。双方が従来の規則はもはや当てはまらないことを示したがっているためだ」と、ニューヨーク州立大学アルバニー校の政治科学准教授でワシントンのシンクタンク、スティムソン・センターの客員研究員であるクリストファー・クラリー氏は指摘。

  「インドは対パキスタンの交戦ルールを再設定したいと考えている。インドが迅速かつ決定的にパキスタンに打撃を負わせた場合のみ、パキスタンが厄介な行為をやめるとみているからだ。一方、インドのそうした試みを危険で、高い代償を伴うものにしようというのがパキスタンの考えだ」とクラリー氏は論じた。

原題:Trump Truce Leaves India Furious, Pakistan Elated as Risks Loom (2)(抜粋)

関連記事: