「日本は基礎科学に誇り持つべきだ」 ノーベル生理学・医学、化学賞の選考委員長が語る

ノーベル生理学・医学賞の選考委員長を務めたスウェーデン・カロリンスカ研究所のオッレ・シェンペ教授=12月6日、ストックホルムの同研究所(黒田悠希撮影)

今年のノーベル賞授賞式を前に、大阪大の坂口志文特別栄誉教授(生理学・医学賞)および京都大の北川進特別教授(化学賞)への授賞を決めた各賞の選考委員会の委員長がストックホルムで産経新聞の取材に応じ、両氏の功績をたたえた。

生理学・医学賞

オッレ・シェンペ教授(スウェーデン・カロリンスカ研究所)

私たちは常に、重要な発見を最初にした人を探す。選考では率直な議論が行われ、最終的にはいつも意見がまとまり、皆が納得する。

ノーベル賞は、物理学では発見や発明に対して、化学では発見や改良に対して与えられる。だが、生理学・医学では発見のみが対象となる。

今年の対象となった「制御性T細胞」は、免疫系のバランスを保つために重要な免疫細胞だ。過剰な免疫反応を抑え、自己への攻撃を防ぐ役割を持つ。

坂口氏は最初に、この細胞の存在を真剣に信じた。1980年代末の免疫学者の大半は非常に懐疑的だったが、その時代に坂口氏は研究を続けた。粘り強さと信念、それに基づく研究継続が、突破を成し遂げる上で重要だった。

疾患をもたらす腫瘍細胞は、制御性T細胞で周りを囲み、自身の免疫系からの攻撃を回避する。現在はまだ実用化されていないが、例えば腫瘍がある場合は制御性T細胞を排除する方法が、自己免疫疾患には制御性T細胞を増やす方法が、理論上は考えられる。そこで多くの企業により、新たな治療法の開発が進められている。

科学は、長い目で見れば自ら価値を証明する。基礎研究は新たな薬や技術、企業を生み、社会に大きく貢献する。科学的な発見は最終的に大きな恩恵をもたらすのだ。

化学賞

ハイナー・リンケ教授(スウェーデン・ルンド大)

ノーベル化学賞の選考委員長を務めたスウェーデン・ルンド大のハイナー・リンケ教授=12月7日、ストックホルムのスウェーデン王立科学アカデミー(黒田悠希撮影)

化学はさまざまな領域で成り立っている。選考ではその全体像の把握に努め、人類に利益をもたらす最も重要なブレークスルーや発見を探す。

今年の対象となった金属有機構造体(MOF)は、気体が出入りでき、かつ安定して作れることが鍵となった。気体の貯蔵をはじめ多様な応用に道を開く基盤になった。

画期的だったのは、3次元の固体材料を設計し、その構造や特性(何を吸着しやすいかなど)を事前に予測できるようになった点だ。MOFにより、新しい能力が化学に加わった。

ノーベル賞を機に、世界の注目が毎年、科学そのものに向けられる。これを生かし、基礎科学の重要性を改めて浮き彫りにすることが大切だ。基礎科学は、当初は明確な応用や目的がなくても、その後大きな影響を与えることが多い。その意義を強調し祝福できるのは素晴らしい。

日本は、ここ数十年で築いてきた非常に強力な基礎科学に対して、大いに誇りを持つべきだ。応用へつなげる実績も優れている。そして、この基礎科学の土台を維持することが重要となる。

北川氏と話をしたが、日本の若年人口の減少に懸念を示していた。将来的に科学を志す若者の減少につながる恐れがある。この問題に注意を払い、若い人が科学に進むための環境を整えることが大切だ。(いずれも聞き手 黒田悠希=ストックホルム)

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