「ナイジェリアでキリスト教徒が大量虐殺されている」 トランプの主張が限りなく疑わしい理由 #エキスパートトピ
トランプ米大統領は11月2日、イスラーム過激派組織によるキリスト教徒の大量虐殺をナイジェリア政府が止めていないと批判し、ナイジェリア政府が即刻対応しないなら米軍が直接行動を起こす可能性があると示唆した。
トランプはナイジェリアで宗教の自由が侵害されているとも非難している。
こうした非難をナイジェリア政府は否定し、同国の主権や領土を尊重する範囲内なら、米軍によるイスラーム過激派の駆逐を歓迎すると述べる。
ナイジェリア政府だけでなく、研究者、メディア、援助団体関係者の多くもトランプの主張に疑問を呈している。
ココがポイント
トランプ氏は1日、国防総省に「行動の可能性に備えるよう指示した」とトゥルース・ソーシャルに投稿。出典:Bloomberg.com 2025/11/3(月)
ナイジェリアでは、キリスト教徒とイスラム教徒の双方が、過激なイスラム主義者による襲撃に遭っている。出典:CNN.co.jp 2025/11/2(日)
(前略)economic competition rather than religious disputes.出典:Afrique XXI 2025/5/2(金)
欧米とりわけアメリカの福音主義者は、自分たちの土地では難しい「神の国」の創設をアフリカで目指しているといえる。出典:六辻彰二 2018/11/25(日)
エキスパートの補足・見解
「キリスト教徒の大量虐殺」の言説が欧米で広がったきっかけは、ナイジェリアのいくつかのキリスト教団体のロビー活動だった。
ナイジェリアなどアフリカでは福音主義をはじめ米国の保守的なキリスト教団体が布教のため進出競争を展開していて、海外でロビー活動を行うキリスト教団体の多くはこの系列に属する。
ただし大量虐殺の言説と距離を置く現地キリスト教会も多い。
疑問の余地が大きいからだ。
ナイジェリアではボコ・ハラムや「イスラーム国」(IS)などテロ組織の活動が目立つが、キリスト教徒だけでなくムスリムも標的にされてきた。
むしろイスラーム過激派の活動はムスリムの多い同国北部に目立つ。
そのうえナイジェリアはこれまで再三米国に過激派対策への協力を求めてきたが、これに消極的だったのはむしろ米国だ。
さらに現地NGOの多くは砂漠化を背景にイスラーム系遊牧民と農耕民の間に土地や水をめぐる衝突が増えていると指摘する。つまりキリスト教徒殺害が信仰を理由にしているとは限らない。
それにもかかわらずトランプ政権は一部の反イスラーム的キリスト教会のロビー活動に乗って強硬姿勢を示しているが、そこには米国内の保守的なキリスト教会の支持への期待がうかがえる。