米国は日本の選挙をどう見たか(古森 義久)

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顧問・麗澤大学特別教授 古森 義久

日本の参議院選挙の結果は米国ではどう受けとめられているのか――石破茂首相の不人気や自民党の弱体化などにより日本の政治が今後不安定を極め、日米関係への悪影響を懸念する声が広範だが、その一方、今回の投票結果が日本でも米国のトランプ政権が主導する保守化の流れに似た潮流を示すとして参政党の動きに注視する向きも多い。

7月20日の日本の参議院選挙について米国のCNNテレビは石破首相の敗北と並んで参政党の躍進に最重点をおいて論評した。CNNの東京やワシントン、香港などからの一連の日本の選挙に関する報道では「YouTubeから始まった右派のポピュリズムの政党がいかにこの国政選挙で大勝利を果たすに至ったか」という見出しで参政党の勝利をとくに注視する反応をみせた。

CNNは米国では周知のように民主党リベラル派を露骨に支持するから、保守志向の動きにはまず批判的となる。だから参政党にも「右派」とか「ポピュリズム」というレッテルを貼るのだといえよう。

ただし米国でのポピュリズムという言葉は日本の大手メディアが訳す「大衆迎合主義」という表現とは異なり、選挙や統治の際、既成勢力や特定のエリート層を無視して、一般大衆に直接に訴える政治手法を指す。だから「大衆直訴主義」と訳す方が正確だといえる。ただし左傾勢力はトランプ大統領の政治手法を批判を込めて右派ポピュリズムと決めつけることが多い。

CNNはだから参政党についても「トランプ方式を真似る形で『日本人ファースト』と自称した」と批判的に指摘し、参政党の政策には外国人排斥の色があるとも評した。同時にCNNの論評は参政党が自国の国益の優先、自国の防衛の強化、減税の推進などという政策を掲げる点でトランプ氏の「アメリカを再び偉大に(MAGA)」やドイツの新興保守政党「ドイツのための選択肢(AFD)」に似ているとも指摘した。

CNN論評は参政党の代表の神谷宗幣氏についても詳しい経歴を紹介し、「日本の新しい右派の代表」と特徴づけていた。ただし参政党が参院でこれまでの1議席から一気に14議席を獲得したことは重視すべきで、今後の日本の政治の保守化傾向を明示したとも論評した。

一方、ワシントンの大手研究機関「戦略国際問題研究所」(CSIS)は日本部のニコラス・シェーチーニ氏らの日本の参院選結果への見解として「日本国民の自民党の石破茂政権下での政治的な不満と経済的な停滞への反発」が主要な特徴だと論評した。7月22日に発表された論評だった。

この論評は自民党が石破首相の下での2024年10月の衆議院選挙ですでに過半数を割り、今年6月の東京都議会選挙でも大敗を喫したことを指摘し、今回の参院選で自民党が史上初めて衆参両院で少数与党となった点を強調し、もっぱら「石破茂首相の下での自民党の不人気」に最大焦点を合わせていた。そして総括として「石破首相に対する重大な打撃」と評した。

ただしCSISの論評は自民党の敗因の一部として「ポピュリスト的な野党の人気の増大」をも挙げていた。その野党の具体的な名称こそ挙げなかったが、最も顕著な議席の増加をみせた参政党を意識している点は明白だった。

またこの論評は今回の選挙の結果が日本の今後の内政や外交に及ぼす影響についても辛辣な見方を明らかにしていた。以下のような考察だった。

「今回の選挙の結果は日本の内政の不安定な時期を長引かせ、対外的にも明確なリーダーシップの発揮を阻むだろう。いまの日本は米国との関税交渉を含む対外、内政両面での重大な政策チャレンジに直面しているのだ」

つまりは今回の参院選の結果は日本にとって内政、外交の両面で迷走や停滞の時期を長く続けさせるだろうという意味である。いわば自明の予測だが、米国側から見ると日本のこの混迷は日米関係への深刻な阻害になるという懸念をにじませた論評だといえよう。

日本の参院選への論評は米国の大手紙ウォールストリート・ジャーナルにも掲載された。7月25日の同紙に載ったジョセフ・スターバーグ氏による長文の評論だった。同氏は同紙で国際的な政治や経済の課題を専門とするベテランのコラムニストである。

このコラム評論の主見出しは「日本の有権者はもうたくさんだ、という態度を見せた」という主旨だった。脇見出しには「問題は日本国民がどれほど長く『沈滞』(malaise)を許容し続けるのかだった。今回の選挙は『もう許せない』という答えを出した」と記されていた。

Malaise(マレイズ)というのはジミー・カーター政権時代によく使われた言葉だった。政治や経済の沈滞、その結果としての国民の憂鬱という意味である。日本でも国民全体の沈鬱こそが自民党の石破政権への大敗北をもたらしたというのがこのコラム記事の最大ポイントだった。

ただしこのコラム記事も「もし唯一の勝者をあげるとすれば、それは石破政権の票を大量に奪った右派の複数の抗議政党だった」と付記していた。右派の抗議政党といえば、まずは参政党、そして獲得議席こそ少ないが日本保守党、さらには国民民主党や日本維新の会も決して左翼ではないからこのカテゴリーに入るかもしれない。今回の選挙では左派の後退が明確だった。共産党の議席減、社民党のほぼ消滅、なお最大野党とされる立憲民主党も伸び悩みだった。

スターバーグ記者のコラムもこの「抗議政党」のなかでは参政党の議席の激増を重視して、自民党の失政と石破首相の不人気でできた政治的な不安の空間を埋める役割を果たした、と述べていた。日本ではいま在住外国人の人数もインフレ率の数字も米欧諸国にくらべれば、ずっと低いが、それでもなお自民党・公明党の連立政権下の諸政策が現実にきちんと対処できなかったことが現体制への不満や怒りを高め、ついに石破自民党への「ノー」という意思表示になったのだ、と結論していた。

以上の3種類の米国側の論評はみな石破氏の失態を大前提としている点が共通していたといえる。米側メディアでは石破首相の進退についても詳しく報道しているが、本人がいくら留任を求めても、首相の辞任を求める潮流が巨大だとする基調は明らかだといえる。

古森 義久(Komori  Yoshihisa) 1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。

編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2025年7月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。

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