わずか9平方メートル…都心に近い「極小」アパートが若者に人気 狭くても“住めば都”
東京都の家賃上昇が、若者の家探しにじわじわと影響を与えている。都心の職場近くに住みたいが、家賃は低く抑えたい―。相反するニーズを満たす物件として、「極小」アパートが人気を集めている。狭くても“住めば都”。単身で暮らす若者の住宅事情に迫った。
初めて見て「めっちゃ狭いな」
歯科衛生士の女性(22)は、東京23区内にある主要駅近くのワンルームアパートに暮らしている。駅まで徒歩約10分。築6年で専有面積9平方メートルのロフト付き極小住宅だ。
訪問すると、想像以上に狭かった。リビングは3畳ほどで、手を広げれば両側の壁につきそうだ。梯子の上にあるロフトに布団を敷いている。シャワールームとトイレは別々だが、浴槽はない。
女性は「初めて部屋を見たときは『めっちゃ狭いな』と思いました。(北関東地方の)実家の自分の部屋の方が広い」と話す。それでもこの部屋を選んだ理由は明快だ。
「家賃が月6万円と安い」
入居率99・9%
実家から勤務先まで1時間以上かかるが、ここなら通勤時間は約40分。狭いため洋服の収納は難しいが、「最近はあまり服を買わないようにしている。狭さにも慣れた」と言う。
このアパートは、建物内にワンルームが15戸ある。外観上は約98平方メートルの土地に一戸建てが建っているような形状で、共同の玄関から別々の部屋にわかれる構造だ。
このアパートのような“極小住宅”を約1500室取り扱っている不動産会社「スピリタス」(東京都港区)によると、入居率は99・9%。借り手の約9割は20~30代だ。家賃が相場より3割以上安く設定されていることもあり、「空きが出て募集をかけると、次の予約まで埋まるほどの人気」という。
広さを求め…築30年超の物件へ
一方、在宅勤務が浸透したことから、契約更新などの際に、広い部屋へと住み替える動きもある。そうした若者の間では、築年数が経過している「築古」(ちくふる)アパートが注目を集めているという。「築30年超」でも引き合いが増え、家賃は上昇傾向にある。
「極小」「築古」のアパートが選ばれる背景には、家賃の急激な上昇がある。
労務行政研究所の調査(速報)によると、東証プライム上場197社の令和7年度入社の大卒初任給は、平均25万5115円。前年度比で6・3%増え、昭和42年の調査開始以来、最高額を更新した。近年は上昇率も年々アップしている。
しかし、都内の家賃の上昇率は初任給を上回っている。不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」によると、23区の単身向け賃貸住宅の家賃(11月)は11万9139円で、前年同月比16・1%増と大幅な伸びが続いている。
「生活水準を落としながら暮らす」
借り上げ住宅や住宅補助支援制度を用意している企業は決して多くない。東京一極集中の傾向は変わらず、進学や就職で上京する単身者向けの物件不足は慢性的で、貸し手にとって家賃を引き上げやすい環境にある。
「LIFULL HOME’S総研」チーフアナリストの中山登志朗さんは、都心の厳しい住宅事情を踏まえ「若者の間では今後も、狭い物件や古いアパートを借りるなど、生活水準をやや落としながら暮らすスタイルが広がる可能性は高い」と話している。(植木裕香子)