NGO報告で露呈する、児童婚の隠れた現実<下> 一緒に暮らすと全てが変わった CNN EXCLUSIVE
ザンビアのダイアナさんは16歳で妊娠、結婚した/Petra Eriksson
(CNN) 世界には18歳未満で結婚した少女が6億5000万人いると推計される。CNNはバングラデシュ、ザンビア、エクアドルに住む3人の少女に話を聞いた。3人の結婚当時の年齢はそれぞれ14歳、16歳、15歳。少女らは育ってきた環境に関する現実や、結婚によって未来がより良いものになると考えた理由について明らかにした。
(少女らの安全を確保するため、記事中では実際とは異なる名前を使用する。掲載されたイラストも、特定の人物を描いたものではない)
ダイアナさん(ザンビア)
「生活は厳しかった」。19歳のダイアナさんはそう振り返る。4人きょうだいの一人で、両親はトウモロコシ、大豆、落花生の栽培で生計を立てていた。家族のことは愛していたが、当時の困窮した暮らしは忘れられない。1日1食で済ませることもよくあった。
だから16歳だった3年前、ジェイコブという名の年長の男性に見初められたのは願ってもないことだった。「彼とのデートはわくわくした。何かが欲しいとねだれば、もらえることがよくあった」。金銭をくれることもあったという。
交際が始まって数カ月後、ダイアナさんは妊娠。当時20歳だった相手の男性と、近くの村へ移り住むことに決めた(ダイアナさんの地域社会では、これは結婚したのと同じとみなされる)。両親にはおばの家を訪ねると告げ、そのまま一切の連絡を絶った。「怖かった。両親が妊娠のことを知ったら、私を殺すだろうと思った」。ダイアナさんはCNNの取材にそう答えた。
ザンビアの法律では18歳未満での結婚は違法だが、これはダイアナさんのような非公式の婚姻には適用されない。法律を迂回(うかい)するこうした婚姻が、児童婚の問題への対処をより困難にしていると専門家は指摘する。
ダイアナさんによると、ジェイコブさんと移り住んで以降、生活は楽しいものではなくなった。友達には誰も会えず、家族に妊娠を気付かれる恐怖から、学校にも通えなくなった。ジェイコブさんも、ダイアナさんの両親に事態が知られるのを恐れていたという。「彼は逮捕されるのではないかと怖がっていた」
ジェイコブさんの態度も変わり始めた。家事を全てダイアナさんに任せ、大量の酒を飲んでいた。暴言や身体的な虐待を受けるようにもなった。
二人でデートしていた頃のような生活が一変した。ダイアナさんはそう説明する。「何もかもがつらかった。彼は働かないので、二人にとって厳しい暮らしだった」
妊娠6カ月の時、ダイアナさんはいよいよ状況に耐えかねて実家へ帰ることに決めた。それでどんな結果が待ち受けているのか、考える余地はなかった。その日の朝、ダイアナさんはジェイコブさんに水を汲(く)みに行くと告げ、そっと家を出た。8キロの距離を歩いて、実家に帰り着いた。
妊娠しているのが明らかなダイアナさんは、実家の両親に全てを説明した。最初こそ両親はダイアナさんに対して憤り、声を荒らげもしたが、自身のこれまでの行動について許しを請うと、受け入れてもらえたという。
ダイアナさんの出産に、ジェイコブさんは関わらなかった。両親の助けを借りてダイアナさんは学校に戻ったが、反応は様々だった。「一部の友人からは良いアドバイスをもらった」が、自分を笑い者にする人や、悪口を言う人もいたという。
妊娠する前はエンジニアになることを夢見ていたダイアナさん。今は「どんな仕事にも就くつもりでいる」と話す。
ジェンさん(エクアドル)
エクアドルの農村地帯で育ったジェンさんは、5年前にパートナーのヤンさんと出会った。自身は13歳、相手は20歳だった。こうした形での婚姻は珍しくなく、地元の共同体では広く受け入れられていると、ジェンさんは説明する。
現在18歳のジェンさんによると年上の夫は優しく、ジェンさんのことを大いに気に掛けてくれた。「彼はいつも私を支えてくれた。二人で包み隠さず話をした」。CNNの取材に対し、ジェンさんはそう語った。自分たちの人生について、何時間も話したという。「彼は攻撃的ではなく、優しい人だった。今でもそんな感じ」
ジェンさんは友人にヤンさんのことを話したが、両親には黙っていた。「両親は彼を好きではなかった。私よりも年上なので。だから友人にしか話さなかった」
2年後、二人は別の家で共に暮らすことに決めた。地元の共同体ではこれは非公式の婚姻であり、結婚したのと同等とみなされる。
ジェンさんによれば、こうした事態を受けて両親は、未成年の娘と結婚したヤンさんを刑務所に入れたいと考えた。エクアドルでの性的同意年齢は14歳。ただ結婚や同棲(どうせい)の法廷年齢は18歳なので、二人の婚姻は法律上認められていない。
それでもジェンさんは両親に、勉強を続けることを約束した。「それが彼らの主な懸念事項だったから」だ。ジェンさんによれば、地元の共同体には12、13歳でパートナーと暮らす少女がたくさんいる。親は最初こそ反対するが、最終的には受け入れる傾向が強いと、ジェンさんはCNNに語った。
ヤンさんを夫と呼ぶジェンさんは、二人の関係に価値を置きつつも、ここへ来て行動に計画性がなさ過ぎたと認識するようになった。ヤンさんと共に引っ越した時には彼の父親も一緒だった。わずか15歳で、ジェンさんは家事の責任が自身にのしかかるのを感じた。掃除や洗濯、朝食の用意などを全てこなし、「それから学校へ行った。学校から帰ると夕食の支度を始めた。自分と夫の分、そして時には義父の分も」。
今ではお互い恋人のまま、一緒に暮らさない方がよかったと考えている。「当時の私は子どもで、即座に決めてしまった。人生について、何も分かっていなかった」
17歳でジェンさんは妊娠。想定外の事態だった。「卵巣に嚢胞(のうほう)ができていて、子どもはつくれないと言われていた」。そうジェンさんは振り返る。その結果、夫婦は避妊をしていなかった。産まれてくる子どもの面倒を見てもらうのを期待して、夫婦はジェンさんの母親の元へ引っ越した。
ジェンさんは楽しかった学校生活について話した。当時はチアリーディングやバンドなどの活動にも参加していた。非公式に結婚する前の思い出は、きょうだいと楽しく遊んだことが大半を占める。「何の心配もいらなかった。母が何でもやってくれた」
現在は家庭での責任が若い母親の時間の大部分を占める。それでも何とか学校を卒業したジェンさんは、来年大学に行きたいと考えている。「母が本当に支えになっている」(ジェンさん)
児童婚以外の選択肢なし
国連児童基金(ユニセフ)の数字によれば、世界中で毎年1200万人の未成年の少女たちが非公式の婚姻を含む結婚生活に入る。2025年の報告では、現状最も高い水準で児童婚が行われているのはサハラ砂漠以南のアフリカ地域となっている。データからはここ数十年でのある程度の進展も示唆される。過去には世界中の20~24歳の女性のうち、子どもの時に結婚したと報告したのは3分の1以上に上ったが、21年には5分の1以下にまで減少した。
この進展は大部分が南アジアにおける著しい減少に起因する。それまでの同地域は児童婚の割合が最も高かった。ユニセフによれば低下が特に際立っていたのはインドで、これは女子教育に注力する取り組みや少女に関する政府支出、児童婚の違法性と害悪に対する世間の認識の高まりなどが部分的に寄与したとみられる。
しかし数多くの専門家がCNNに明らかにしたように、国際NGOプラン・インターナショナルの聴き取り調査に応じたレハナさん、ダイアナさん、ジェンさんをはじめとする数百人が経験した物語は、青年期の少女たちが抱える経済的不安や機会の制限が依然として世界における児童婚の主要な推進要因になっている現状を示している。しかも法的保護は適切に執行されず、彼女たちの権利を守るに至っていない。
「児童婚や非公式の婚姻に向かう道筋は様々だ」。プラン・インターナショナルで世界的なキャンペーンと動員を主導するゾーイ・バーチャル氏は、そう指摘する。「少女の側では、いくつかの選択肢がある中でこの状況に至っていると感じるのかもしれない。しかし結局のところ、我々から見れば依然としてこれらの少女は、より良い選択肢がないと自分で感じているからこそ児童婚に向かっている」。バーチャル氏は今回の報告について、児童婚には伝統的な形態が存在しないということを明示するものだと確信している。同氏によると、我々が考えなくてはならないのは、もし少女たちにあらゆる選択肢が用意され、十分な教育を受けられ、他の道を選ぶ資金や有効な手段があったとしたらどうか、という点だ。その場合でも彼女たちは児童婚を選んでいただろうかと、自問してみる必要があるという。
若くして結婚した理由について、調査対象の少女たちが最も共通して口にするのは経済苦や文化的規範、もしくは家族からの圧力だ。インタビューを受けた少女の25%は、結婚の決定には口を出せなかったと回答。35%は結婚直後もしくは結婚を理由に退学したと答えた。パートナーの年齢を明かした少女たちのうち、ほぼ半数(45%)は5歳以上年上の男性と結婚したと答えた。報告では複数の国の少女が、避妊法の利用を巡る困難に言及。そうした問題で主体的な意志決定がしづらい状況を明らかにした。
インタビューに応じた少女の10人中1人以上はパートナーによる虐待や暴力に触れた。しかし少女たちは直接この問題について質問されたわけではなく、回答も家の中で行うことが多かったため、NGO側としてはこの結果に関して、実際の問題の規模を反映していない公算が大きいと考えている。そうした暴力を報告した人のうち、85%は5歳以上年上の男性と結婚していた。
英キングス・カレッジ・ロンドンの開発経済学教授、ザキ・ワハージ氏はCNNのインタビューに答え、本稿で取り上げた3人の少女について、虐待や搾取、安全と福祉に対する深刻なリスクが絡む状況に置かれていたと指摘。少女たちの出身国(バングラデシュ、ザンビア、エクアドル)はどこも結婚の最低年齢を定めているにもかかわらず、こうした安全策が機能せず、非公式の婚姻や偽造された文書で迂回(うかい)されていると分析した。また少女たちの家族が最終的に支えになり、状況の改善に一役買っているのは心強いとしつつ、常に家族の支援を当てにできるわけではないとも言い添えた。
児童婚を規制する法律がある国々でも、各国政府にはそれらを執行する上で課題があることが報告からは読み取れる。そうした課題は法律自体の隙間や結婚最低年齢に関する例外事項、共同体からの反発などに起因する。
CNNはバングラデシュ、ザンビア、エクアドルの政府機関にコメントを求めたが返答はなかった。
ユニセフで児童保護担当の上級アドバイザーを務めるベロニカ・カマンガ・ンジコ氏は、今回の新たな調査を一助として、少女たちの人生をより良いものにするため何が必要なのかが明確になると強調。「法律だけでは不十分だ。法の執行と説明責任、より広範な社会変容がなければ、児童婚は今後もなくならない」「何が有効かは分かっている。少女たちを学校に通わせ続け、家族を経済的に支援する。児童婚を禁じる法律を執行し、地域社会と連携しながら有害な社会規範を変えていくことだ」と語った。