アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トランプ政権との距離感に疑念も
[ワシントン 17日 ロイター] - トランプ米大統領は8月、首都ワシントンで犯罪取り締まり強化の号令をかけた。その現場で、司法省の足元が揺らいでいる。違法な捜索や起訴への詰めの甘さ、担当幹部の不用意な発言。法曹関係者は、小さなほころびが法廷で積み重なり、刑事と民事の双方で「政府の手続きは適正に行われている」とする前提が傷つけられているとみている。
8月、連邦捜査官と警察は、食料品店「トレーダー・ジョーズ」の店内でトーレス・ライリーという男がリュックを引っ張る様子を見つけ、捜索して銃器2丁を回収した。だが、防犯カメラの映像から、その捜索には「プロバブル・コーズ(相当な理由)」がなく、違法だったと判明し、連邦検察は起訴を取り下げざるを得なかった。
この件の判断で連邦治安判事のジア・ファルキ氏は、誤りが「前例のない検察の不手際」のより大きなパターンの一部だと指摘した。ワシントンの連邦検事局が8週間に申し立てた刑事告発のうち、却下や取り下げに至った割合は21%。過去10年の却下率が0.5%だったのと比べると、突出している。
「検察はライリー氏の逮捕状況を適切に調査する前に起訴し、拘留したようだ」とファルキ氏は記した。
これまで、連邦裁判所が司法省の能力や誠実さを疑問視することは比較的まれだった。しかし、ロイターの調査と法律専門家によると、1月以降、司法省の足を引っ張るような法的な失態が相次いだため、司法省への疑念はますます一般的になりつつある。
司法省は係争中の訴訟についてコメントを控えたが、同省の広報担当者は「司法省は、最高裁判所の緊急訴訟案件でこれまでに24件の勝訴判決を得て、国際テロリスト、暴力犯罪者、さらには汚職に関与したとされる政治家らを複数起訴するなど、トランプ政権と米国民のために法廷で勝利を収めている」と述べた。
ワシントン連邦検事局の報道官ティム・ラウアー氏は「当局は法律を条文通りに執行し、事実に基づいて行動が正当化される場合に立件する。結果を決めるのは判事と陪審で、当局の役割は、違反者の責任を問うことだ」と話した。
<トランプ氏の政策にも逆風>
失態は時に、司法省が重視する民事・刑事案件で足を引っ張ってきた。トランプ氏の政敵への訴追から、移民、暴力犯罪、性別適合治療、投票権をめぐる案件まで、対象は広い。
幹部が係争中の事件について、宣誓のうえ裁判所に提出した書面の主張から逸脱する内容をテレビやインターネット上で語ったことによって生じた例もあった。こうした発言は公正な裁判を担保するために設けられた省内の規則に違反している。
これらのミスにより、司法省の検事らは連邦裁判所における信頼を失いつつある。実際、一部の判事は政府側の召喚状を却下し、検事を法廷侮辱に問う可能性を示唆。当局の行動に疑義を呈する意見も示されている。一部では、大陪審が起訴状を退ける例も起きている。提示する証拠の範囲を検察側が実質的に握る仕組みを踏まえれば、極めて異例の事態だ。
元連邦検察官のアレクシス・ローブ氏は、裁判所が政府の行為を信頼するという長年の法理に触れ「政府の代理人として法廷に立つ以上、よりどころは信用であり、司法省は『手続きは適正に行われている』という推定に支えられている」と語る。「それが崩れ、裁判所の信頼を失えば、仕事ははるかに困難になる」
<コミー氏の起訴棄却>
司法省の失策で最も注目を集めた事例は恐らく、トランプ氏に批判的なジェームズ・コミー元連邦捜査局(FBI)長官を虚偽の陳述と議会妨害の罪で司法省が起訴した一件だろう。コミー氏は2017年、トランプ氏によって解任された。
連邦判事は11月、この起訴を棄却した。違法に任命されたハリガン暫定連邦検事によって起訴されたと判断したためだ。ハリガン氏は、トランプ氏が自ら指名して選んだ人物だとされる。前任者は、提出可能な証拠だけでコミー氏とニューヨーク州のジェームズ司法長官を起訴するには弱いとの懸念を示していた。
この判決が出る前から事件は難航していた。治安判事は、ハリガン氏による多数の誤りを見つけたと発言。その内容は大陪審に対する法の誤った陳述から、コミー氏と弁護士の間の秘匿特権のある資料を除外するフィルタリングをせずに大陪審に証拠を提出するといった不正行為の可能性にまで及ぶという。
別の判事がハリガン氏の連邦検事としての資格を剥奪した後、司法省は検察官らに電子メールを回し、ハリガン氏の名前を全ての答弁書の署名欄に残し、ハリガン氏がその役職に就いていると記載するよう指示した。ただ、「Attorney(検察官)」という単語のつづりは間違っていた。
法律専門家らは、少なくとも一部の法律上の失策は組織的な知見の喪失によって引き起こされていると指摘した。
公的記録によれば、1月から11月までに同省は2900人以上の弁護士を失った。これは過去4年間に毎年退職した弁護士数の3倍にあたる。
「経験豊富な連邦検察官・連邦捜査官が大量に流出した後に、司法省職員による実際の、あるいはそう見なされる失態が増えているのは偶然ではない」と元連邦検察官のピーター・ララス氏は述べた。
<世論向けの発信>
省庁幹部がソーシャルメディアで注目を集めようとしたり、トランプ氏とその支持者から政治的な支持を得ようとした時にもミスが起きている。
FBIのパテル長官は、ウィスコンシン州のハンナ・デュガン判事が、入国管理の執行を妨害した罪で逮捕されたことについて、X(旧ツイッター)に投稿。この事件は当時、情報公開が制限されていた。パテル氏は数カ月後、FBIがチャーリー・カーク氏暗殺事件の容疑者を拘束したと誤って投稿し、後にこの発言を撤回せざるを得なかった。この件について、FBIはコメント要請に応じなかった。
トッド・ブランチ司法副長官は、エルサルバドル移民のキルマー・アブレゴ・ガルシア氏に対する刑事告訴を求める司法省の動機について、法廷外の声明を出した。ブランチ氏はFOXニュースに対し、メリーランド州の判事がガルシア氏の米国外退去処分に疑義を呈し、政府には同氏を強制送還する権限がないと判断したことを受けて、検察は捜査を始めたと述べた。
裁判官はその後、この声明が「報復的な起訴である」として起訴の取り下げを求めるガルシア氏の主張を、支持する根拠になる可能性があると指摘した。
さらに、ボンディ司法長官が作成したメモも波紋を広げた。未成年への性別適合手術を性器切除と同一視したという内容で、複数の連邦裁判所が医療提供者の診療記録を求める司法省の召喚状を退けた。裁判所は、司法省が「悪意(バッド・フェイス)」で動いていると述べたという。
「彼らはまず撃って、後から狙いを定める。それで、結局は的を外してしまう」と元検察官のジーン・ロッシ氏は言う。「ホワイトハウスと司法省の間には、やりとりや政治的プロセスという面での壁がない。だからこそ失態が起きるのだ」
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Sarah N. Lynch is the lead reporter for Reuters covering the U.S. Justice Department out of Washington, D.C. During her time on the beat, she has covered everything from the Mueller report and the use of federal agents to quell protesters in the wake of George Floyd’s murder, to the rampant spread of COVID-19 in prisons and the department's prosecutions following the Jan. 6 attack on the U.S. Capitol.