焦点:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドローンで戦術再構築
[16日 ロイター] - ミャンマーの反政府勢力の戦闘員であるカンは10月に、主要都市ヤンゴンと首都ネピドーのほぼ中間にある村パズンミャウンで国軍と交戦した。しかし迫撃砲やドローンによる攻撃にさらされ続け、1週間後には近隣の拠点への撤退を余儀なくされた。戦闘経験が豊富なカンにとっても、かつて経験したことがない激しい戦いだった。
カンや同僚の戦闘員であるタイによると、反政府勢力は迫撃砲やドローンによる攻撃に続いて歩兵部隊による波状攻撃を受けた。タイはとりわけ過酷だった5時間の戦闘について「全戦力を投入した攻勢だった」と振り返った。
ミャンマーは2年前に反政府勢力が大規模な攻勢を仕掛けて国境地帯の大部分を手に入れたが、最近は軍事政権が態勢を立て直しつつあることが、ロイターが行った反政府勢力戦闘員6人と、軍と定期的に接触している人物を含むセキュリティーアナリスト3人への取材で明らかになった。
軍事政権は徴兵制の導入やドローン部隊の拡充によって戦術を再構築したことで、戦闘での敗北や手詰まり状態を脱し、いくつかの地域を奪還できるようになっている。中国が反政府勢力に対し、停戦に向けた外交的・財政的圧力を加えていることも支えになっている。
反政府勢力の戦闘員3人は、政府軍が反政府勢力の防衛線を圧倒するために「人海戦術」を用いているのを目撃したと述べた。カンによると、10月の戦闘では「1人の兵士が死ぬと、別の兵士が交代」。指揮官から銃を突きつけられて脅されているように見える兵士もいたという。反政府勢力の戦闘員2人によると、政府軍はこれまで、敗北が重なり始めるとすぐに逃走していた。
こうした戦術の変更によって政府軍は少なくとも3つの州で限定的な巻き返しを図ることができていると、シンガポールのシンクタンク、ISEASユソフ・イシャク研究所が11月に発表した資料は指摘した。ただし政府軍の前進は一様ではなく、異なる強さを持つ複数の反政府武装勢力と対峙しており、全国の前線を単一勢力が支配している状況ではないという。
ミャンマー軍指導部による失地回復の動きは、12月28日に始まる予定の総選挙と時期が重なる。
中国からベンガル湾に至る数百キロメートルに及ぶ前線で情勢が変わりつつある中、軍事政権はさらなる領土奪還を目指して一層大胆になる可能性が高いと、ミャンマー平和安全保障研究所のシンクタンクのエグゼクティブ・ディレクター、ミン・ゾー・ウー氏は予想。「今後3年間で武力衝突と、軍による領土奪還作戦が増えるだろう」と述べた。
<徴兵とドローン>
ミャンマー軍事政権は、反政府勢力による攻勢「オペレーション1027」によって打撃を受けると、その数カ月の2024年2月、若者の兵役を義務化。軍脱走者2人とアナリスト1人によると、兵役義務化発表以降に7万-8万人の新兵が軍に入隊した。軍事政権はこれまでにおよそ16回の徴兵を発表している。ロンドンに拠点を置くシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)の25年の推計によると、政府軍の兵力は約13万4000人で、クーデター前の40万人を下回っている。
ミン・ゾー・ウー氏によると、オペレーション1027をきっかけに人事が刷新され、こうした増強部隊は経験豊富な幹部が率いるようになっている。かつては「適切な現場経験を持たないまま昇進した幹部がいた時期もあった」
クーデター後に軍を離れ、現在は内戦を研究しているナウン・ヨー少佐は、軍人事について直接知る人物から、縁故主義に基づいて任命されていた指揮職を、より経験豊富な幹部が引き継いでいると聞いたと述べた。
またミン・ゾー・ウー氏とナウン・ヨー氏によると、今では多くの部隊が長期にわたる前線展開の後、より多くの休養時間を確保できるようになっている。クーデター直後の数年間は兵力が逼迫し、このような休養時間は持てなかった。
さらに軍事政権は自爆型ドローンや偵察用ドローンを含む無人航空機(UAV)の保有機数を増やしている。武力衝突や政治勢力による暴力事件を集計する監視団体「武力紛争発生地・事件データプロジェクト(ACLED)」によると、政府軍は中国、ロシア、イラン製の固定翼機やマルチローター型を含む、19種類のUAVを入手しているとみられる。
ACLEDのアナリストのスー・モン氏によると、現在では政府軍の攻撃は偵察・監視ドローンによって収集された情報に基づいて実施されるケースが増えており、空からの攻撃は精度が上がっている。
反政府勢力側もドローンを保有しているが、妨害技術や防空システムが不足しているため、軍事政権のUAVに対して脆弱であると、反政府勢力の戦闘員らは話した。
さらに政府軍は、これまで上級司令部の承認が必要だった航空支援の要請を、より下位の指揮官が直接行えるようにし始めており、歩兵による攻撃に先立って敵の防御陣地を空爆することが可能になっていると、3人のアナリストは述べた。
<北京の後ろ盾>
軍事政権の反攻を支える第3の要素は中国だ。
中国政府は一部の反軍事政権勢力と密接な商業・文化的関係を持つ一方、歴史的にはミャンマーの政府軍幹部を、自国周辺地域の安定を守る要と見なしてきた。
中国当局は24年と25年に少なくとも2度にわたり停戦を仲介した。また研究者によると、中国は少数民族ワ族の武装勢力、ワ州連合軍(UWSA)などの武装勢力に圧力をかけ、他の抵抗勢力への武器の流れを遮断させている。
シンクタンクの国際危機グループ(ICG)は11月の報告で、「中国はUWSAに関連する資産を凍結し、国境制限を課し、同組織に対して他の武装勢力への武器供給を断つよう要求した」と指摘した。
またルビー鉱山で知られる山間の町モゴックでは、中国が別の民兵組織、タアン民族解放軍(TNLA)に圧力をかけたために武器の入手が制限され、反軍事政権活動が完全に停止したと、地元の反政府勢力の戦闘員が証言した。
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