古代の知恵×現代の技術で水不足解消 アテネで2世紀の水道が復活

2024年の熱波のさなか、公共の泉から水を飲む観光客と住民。いくつかの解決策のうちで、熱波と渇水に抗うためにアテネが使おうとしているもの──それは古代ローマ帝国時代に建てられた、2000年前の水道だ。(PHOTOGRAPH BY STELIOS MISINAS/REUTERS/REDUX)

 数週間後、エレニ・ソティリウ氏やそのご近所さんが蛇口をひねると、多くのアテネ人が存在に気づいていない、古代の地下の水路を通った水が流れ出てくるだろう。

「2000年前に作られたものが、こうした重要な役割を担って、現代のギリシャ人に使われるなんてわくわくします」。環境意識が高い、65歳のソリティウ氏はこう話す。どんどん不足していく飲み水のため、洗車などで無駄遣いしているご近所さんへ控えるように伝えることもあるという。「気をつけなければなりません」とソリティウ氏。「水資源は有限なのです」

 ヨーロッパでも暑い南東の端に位置するギリシャでは、気候変動によって水不足の危機は深刻化する一方だ。2024年、ギリシャのいくつかの島で、降水量の減少によって水の使用が制限され、農家は困難を強いられた。増加する観光客は、水不足に拍車をかけた。また、気温の上昇も、山火事をもたらして乾燥を進める一因となった。

 ここ10年で貯水量がもっとも少なくなっているアテネでは、主な貯水池を人工湖とつなげる計画があるほか、当局は水道網を新しくして漏水を止めつつ、持続可能な下水のリサイクル方法を開発しようとしている。

 だが、もっとも革新的な対処法は、現代の技術よりも、古代の知恵に頼るやり方だ。ローマ帝国の時代に建設された水道を利用するのだ。

 実際に、5年かけて計画したプロジェクトが2025年7月に開始されると、アテネ郊外のある地域の家々へ、直接、古代の水道網を通った水が徐々に引かれる予定だ。この実験の目的は、水不足の緩和と街の冷却だ。この水は飲用ではないが、庭仕事などに使える別の水の供給網ができることで、飲用水の温存につながる、と当局は期待している。(参考記事:「1400年前の古代水路が現代の水不足を救う、研究」

「今でも使えるというのが驚きです」。アテネ水道公社で技術革新・戦略部門を指揮する、ヨルゴス・サヒニス氏はこう話し、古代ローマ時代の水力工学は「とても見事だ」と付け加える。

ギャラリー:水不足解消のため、2世紀の水道が復活するアテネ 写真5点(写真クリックでギャラリーページへ)

ハドリアヌスの水道につながる古代の石で造られた井戸にポンプを取り付ける作業員。この水道網は破損状態になるまでの1000年以上にわたって使われていた。(PHOTOGRAPH BY ANGELOS TZORTZINIS/AFP/GETTY IMAGES)

パルテノン神殿のハドリアヌスの水道が描かれた1759年の挿絵。悪化する渇水を受けて、街は古代の水道を復活させ、飲料水を温存しようとしている。(ILLUSTRATION BY SAYER ROBERT VIA ART COLLECTION / ALAMY STOCK PHOTO)

過去と現在をつなぐ

 2世紀、アテネでの水の需要の高まりを受けて(ローマ人が好んだ公衆浴場も、水のひとつの主な使い道だった)、ローマ皇帝ハドリアヌスの命(めい)によって作られた長さ約24キロメートルの水道は、それまでのものより長く、手の込んだ、「壮大な」プロジェクトだった。ギリシャ文化省の考古学者であるセオドラ・ゼフェリ氏はこう説明する。(参考記事:「ギリシャを偏愛したローマ皇帝、ハドリアヌス」

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