そこらへんの鳥とか植物をスマホでシェア→ めちゃくちゃ科学への貢献に!
スマホさえあれば、だれでも簡単に博物学者になれる時代になりました。
iNaturalistのような生物観察アプリは、過去15年間で人気が急上昇し、何百万もの人々によって世界中の野生生物が記録されています。新しい研究によって、こうした観察記録が科学研究に膨大な量のデータを提供していることが明らかになりました。
iNaturalistの急成長と科学への貢献
Image: Google Play2008年のリリースから利用者を増やし続けてきたiNaturalistは、いまや世界中で350万人以上のユーザーによって2億件を超える観察記録が投稿される巨大な市民科学のデータベースに成長しました。
今回とりあげる論文の共同執筆者で、フロリダ大学で地球規模の生態系の変化を研究しているCorey Callaghan氏が米Gizmodoに語ったところによると、7月28日に学術誌BioScienceに掲載された研究成果は、iNaturalistを通じて一般市民が生物多様性科学にどのように貢献しているかを包括的に定量化した初めての研究とのこと。
研究チームが数千件の研究論文を調査した結果、iNaturalistのデータを使用した査読付き研究が、過去5年間で10倍以上になっていることが判明したといいます。
市民科学の新時代を切り拓くiNaturalist
研究チームでデータの管理と分析を担当し、論文の主執筆者を務めたBrittany Mason氏は、米Gizmodoの取材に対し、メールで次のように語っています。
iNaturalistにアップロードされる写真は、種の生息地を記録するだけでなく、生息環境、色の特徴、行動など、生物に関する豊富な情報源になっています。研究者は、画像データを生態学や行動学に関する貴重な情報として、ますます活用するようになっています。
iNaturalistの台頭によって、市民科学は新たな時代に突入しました。iNaturalistは、iOSとAndroidのどちらにも対応しており、だれでも気軽に野生生物を記録し、それを地球規模生物多様性情報機構(GBIF)などの研究機関と共有できます。
AIに頼らず人間の目で種を識別
AIを使って種を識別する他のアプリと一線を画すiNaturalistは、この作業を世界中に広がる大勢のユーザーコミュニティに委ねています。
Callaghan氏は、AIではなく人間の手作業で種の識別をする理由について説明します。
(データを)研究で使えるレベルの質にするためには、人間が識別した種を確定する必要があります。
こういった共同作業によって、スマホで撮影された生物が、学術的な研究に用いることのできる厳格に検証された豊富なデータに生まれ変わるというわけです。
Mason氏はこう付け加えます。
iNaturalistに投稿するユーザーの多くは、科学者としての専門知識を持ち合わせていませんが、iNaturalistの使いやすいデザインのおかげで、だれもが科学的発見に意味のある形で参加できるようになっています。
128カ国の論文がiNaturalistのデータを活用
Callaghan氏によると、iNaturalistの登録ユーザーは350万人を超え、種の分布の追跡や外来種の発見、気候変動の影響の把握、新種の発見など、研究者たちの活動をサポートしているといいます。
たとえば、2011年にはコロンビアのユーザーが極めて希少な種とされるコロンビアイタチを撮影しました。これは今世紀に入って初めて確認された個体の生体記録であり、2019年の保護区における分布を調査した研究に貢献したといいます。
今回の研究によると、iNaturalistのデータは科学文献に広く活用されており、128カ国の論文の638を超える分類群において言及されているそうです。
市民科学が生物多様性の危機の救世主に?
地球規模の生物多様性の危機に直面しているいま、種の状況を記録し評価するための、費用対効果が高く、効率的な方法を早急に確立する必要があると研究チームは述べています。
ミシガン大学持続可能システムセンターによると、2022年の時点で、アメリカだけでも211種の動植物が絶滅し、2,288種が絶滅の危機に瀕しています。
こんな状況のなかでは、個人は無力、自分にできることはないと感じてしまいがちです。でも、今回の研究結果は市民科学が種の監視や保護、保全の取り組みにおいてますます重要な役割を果たしていることを示しています。
Callaghan氏は、過去数年間でiNaturalistの観察データが指数関数的に増加したことで、生物多様性研究の現状が「根本から変わった」と述べています。そして、その勢いが衰えそうな兆候は見られないとのこと。
同氏は、iNaturalistの可能性についてこう語っています。
5年先、10年先にどうなっているのか、想像もつきません。なぜなら、私たちはまだ(iNaturalistの)可能性を理解できていないのですから。
アプリを通して市民科学が学術的な科学に影響を与えるとわかれば、市民がもっと参加するようになって、さらに科学が進歩していくポジティブな連鎖が生まれそうですね。