世界最速で自走する氷できました。これ発電に生かせるかも?
ヒントは「デスバレーの動く石」。
バージニア工科大学の研究チームが、自力で勝手に移動する氷を実現しました。そのスピードは世界一!
まずは動画でご覧ください。
Video: Virginia Tech Mechanical Engineering / YouTubeね? 少し溶けかかるとモソモソして、限界までくると急に加速がついて溶けた水ごとササササーッと移動していってます。応用すれば発電も夢じゃないとチームは期待を膨らませていますよ。
どうして動くの?
ACS Applied Materials & Interfacesに掲載された論文によれば、これは「ヘリンボーン(ニシンの骨みたいなV字の縞模様)状の台上に置いた氷の円盤で実演した固体-液体自己推進」で、「外力(風)に頼ることなく固体の自走を実現した」のがポイント。
動くカラクリは簡単です。アルミニウムの台にヘリンボーンのエッチングを施してやったんですね。こうすれば溶け出る水がひとつの方向に向かって流れ、一定量貯まると水が氷を引っ張っていくのです。
着想の源は、冒頭でも触れたように、デスバレーの干上がった湖底「レーストラック・プラヤ」にあります。
レーストラックは高低差のない平地なのに、人間が押してもビクともしない岩石が傘地蔵のように疾走した痕跡があちこちに見つかるミステリースポット。なぜ動くかをめぐっては諸説あり、1940年代から続く謎だったのですが、2014年になってようやく「雨が凍って融けるときに、風に吹かれて動く氷と一緒に岩も移動している」ことが判明しました。
でも、まあ、今回のデモでは風力は一切加えていません。
実験ではアルミ台の表面に撥水性スプレーを吹き付けて、もっと加速するかも確かめてみたんですが、むしろ動かなくなったんだそうですよ? これについては、論文共著者のJonathan Boreyko准教授(Nature-Inspired Fluids & Interfacesラボ所長)がこう話しています。
「水を弾く表面だと、溝から水があまりにも簡単に溢れ出てしまうので、氷が高いところにくっついて離れない。溶けた水が一定方向に流れることは流れるのだが、こうなると氷が流れに乗れないんです」
「逆に溶け出した水が氷片の先端を通るとき水たまりになれば、片側に水たまりができたことで表面張力のバランスが崩れて、氷が浮いて急加速するというわけですね」
このような現象を、研究チームでは「スリングショット効果」と呼んでいます。台上を駆ける氷の速度は一応「世界一」とのこと。
「世界一ったって、こんな短距離でなんの意味があるの?」と思うかもしれませんが、先の准教授曰く、発電への応用が効くかもしれないとのこと。
「面の模様を直線ではなく円型にすれば、溶ける物体が延々回り続けることになります。
となると氷の上に磁石を置けば、磁石が延々回り続けることになり、発電への応用も夢ではありません」
発電系の新素材といえば、10年前には発電メタル(動画下)もあったし、今年2月には発電スライムや大気中のCO2を吸い上げるソーラーパネル、8月にはソーラー発電を加速するブラックメタルの研究も話題でした。
化石燃料に頼らない発電へのニーズが高まるなか、いろんなクリエイティブなアイディアが出てきていて頼もしい限りです。
Video: New Scientist / YouTube