コンビニ店員「レジ袋は大丈夫ですか」客「大丈夫です」…言語学者が「大丈夫」の代用語を使った実験の衝撃結果【2025年8月BEST】 日本語の「大丈夫」は全然大丈夫じゃない理由

コンビニの店員などからよく聞かれる「お箸は大丈夫ですか?」「レジ袋は大丈夫ですか?」。不要なら「大丈夫」と返答する人が多いが、日本が好きすぎて2年前に日本に帰化した北九州市立大学准教授(言語学)は、「大丈夫」の代用語を使う実験をした。さて、どんな結果になったのか――。

※本稿は、アン・クレシーニ『世にも奇妙な日本語の謎』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

21世紀の「ヤバい」はマジでヤバい

私は職業柄、これまでずっと言葉の変化を見ているけれど、21世紀でもっとも勢いがある単語は、きっと「ヤバい」だ。

この単語は若者がよく使う印象があるが、私みたいにいい歳をした大人も普通に「ヤバい」を使っている(高齢者にはまだあまり浸透していないみたい)。

ある日、英会話カフェで年配の方々に英語を教えていたら、生徒さんの1人が「先生、『ヤバい』って、どういう意味なんですか?」と聞いてきた。少しウケた。英語ではなくて、日本語についての質問をしたからだ。

「ヤバい」は、もともと「危険」「危ない」という意味だったかもしれないが、今や、日本語の形容詞を半分ぐらい「ヤバい」に言い換えることができる気がする。

「このお寿司はヤバい!」(=美味しい) 「テストの点数がめっちゃヤバかった」(=とても悪かった) 「推しとツーショット撮れた! ヤバッ!」(=とても嬉しい) 「今日のライブ、超ヤバかった!」(=興奮した) 「あなた、ヤバい!」(=面白い) 「彼の顔はマジでヤバい」(=かっこいい) 「すっぴんの私の顔、ヤバいわ」(=恥ずかしい) 「(明日はみんなの前でスピーチで)ヤバい」(=緊張する)

「あの韓ドラは超ヤバかった!」(=感動した)

中学生の娘に聞いてみたら、表情付きの単独で使う「ヤバい」「ヤバッ!」「やべ〜」などが一番よく使われているそうだ。また、イントネーションと表情、そして文脈によって意味が変わってくるらしい(つまり、日本語学習者にとって、マジでヤバい現実だ)。

写真=iStock.com/Yauheniya Krupel

※写真はイメージです


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日本に来た時、私はまったく日本語がわからなかったが、定番の表現をいくつか覚えた。

「私の名前はアンです」 「トイレはどこですか?」 「ちょっと待ってください」 「アメリカから来ました」 「大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

「大丈夫です」は何百回も言ったり言われたりした。私にとって「大丈夫です」は日本での生活に欠かせない表現だ。

「お熱は大丈夫ですか?」に込められた多義的ニュアンス

しかし、最近の日本語の「大丈夫です」は大丈夫だろうか。

本来の使い方とあまりにもずれすぎているので、外国人だけではなく、日本人でさえも困惑しているのではないか。

コロナ禍、マッサージ屋さんに行くことが多かったある日、お店に入って、受付の方にこう尋ねられた。

「お熱は大丈夫ですか?」

一瞬、戸惑いながらも、頭の中で該当する英語に変換していた。

“Is your fever doing okay?”……ヘンなの!

けれど、まぁ、長く日本に住んでいるから、何となく意味はわかる。「もちろん、ここに来る前に熱は測ったよね?」「発熱とか風邪症状がないから、マッサージを施術しても問題ないんだよね?」というニュアンスが、全部この「お熱は大丈夫ですか?」という表現に込められている。

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