太陽嵐から地球を守れ!磁気圏にプラズマの壁を作る「ストームウォール」構想
太陽の表面で大きな爆発が起きると、大量の電磁波や高エネルギーのプラズマが放出される太陽嵐となり、それが地磁気嵐を引き起こし、人工衛星やGPS、地球上の送電網に深刻な被害を与えることがある。
米ボストン大学の研究チームは、太陽嵐から地球の被害を和らげる「ストームウォール」という防御システムを提案した。
6機の宇宙機から化学物質をまいて地球の周りに「壁」を作り、太陽嵐を受け流すという構想だ。
シミュレーションでは、大規模な太陽嵐の強度を50%以上減らせる可能性が示された。
この研究成果は 『Space Weather』誌(2026年6月2日付)に掲載された。
太陽の表面では、ときおり「太陽フレア」と呼ばれる大きな爆発が起きる。
太陽フレアが発生すると、強い電磁波とともに、高いエネルギーを持つ「プラズマ」が大量に宇宙へ噴き出す。これが太陽嵐だ。
噴き出した太陽嵐のプラズマが地球を包む磁場にぶつかると「地磁気嵐」が発生する。
地磁気嵐が発生すると我々人間の暮らしに様々な支障をきたす。
地磁気嵐が発生すると、人工衛星の電子機器が壊れたり、GPSの信号が乱れ、地上の送電網に想定外の電流が流れて停電を引き起こしたりする。
世界中の電子決済は人工衛星が送る時刻情報に頼っているため、衛星が乱れるとお金のやり取りが滞る。
2024年5月には、大規模な地磁気嵐が農業用トラクターを動かすGPSを狂わせ、米国の農家に5億ドル(約810億円)の損害を与えた。
この画像を大きなサイズで見る地磁気嵐が地球の磁気圏を襲った様子をシミュレーション DRIVE Science Center for Geospace Storms米ボストン大学のブライアン・ウォルシュ准教授は、ミシガン大学の研究者と協力し、太陽嵐の被害を和らげる防御システム「ストームウォール(StormWall)」構想を提案した。
地球の大気の一部は、少しずつはがれて、地球を守る磁場のバリアである「磁気圏」のふちへ自然に漂っていく。
ウォルシュ准教授は、自然に起きる大気の漂いをヒントに、漂いを人の手で強めれば太陽嵐を防ぐ壁になると考えた。
ストームウォールでは、まず6機の宇宙機を静止軌道に打ち上げる。
静止軌道とは、地球の自転と同じ速さで回るため、地上から見ると衛星が空の一点で止まって見える軌道のことだ。
各機には、ナトリウムやバリウム、カルシウム、リチウムといった元素などを組み合わせた化学物質を入れた容器を積む。
地上からの指令で学物質を放出すると、太陽の光を浴びて電気を帯びる「光イオン化」が起き、化学物質はプラズマに変わる。
プラズマとは、気体に高い熱や電気のエネルギーが加わり、原子がプラスの電気を持つイオンとマイナスの電気を持つ電子にバラバラに分かれた状態のことだ。
固体・液体・気体に続く「物質の第4の状態」と呼ばれ、高い電気伝導性を持つのが特徴となる。
太陽嵐が噴出するプラズマも同様の性質だ。いわば太陽嵐のプラズマを人工プラズマの雲が磁気圏で逸らす形となる。
太陽嵐のエネルギーは、磁気圏の昼側にある「磁気リコネクション」という入り口から地球へ流れ込む。
磁気リコネクションは、太陽風の磁力線と地球の磁力線がつなぎ変わり、エネルギーが磁気圏へ注ぎ込む現象だ。
磁気リコネクションが起きる場所に人工プラズマを十分に加えると、つなぎ変わりの効率が落ち、太陽嵐のエネルギーは地球の周りへ逸らされる。
ウォルシュ准教授らは、2024年5月に実際に起きた大規模な地磁気嵐「ギャノン嵐」の観測データをコンピューターに入力し、もしストームウォールがあったら嵐をどれだけ弱められたかを計算した。
その結果、地磁気嵐の強度を50%以上減らせる可能性が示された。
放出したプラズマが宇宙ゴミになる心配も小さく、約6時間で磁気圏の外へ自然に運び出されるという。
磁気リコネクションストームウォールの最大の課題はコストだ。
6機の宇宙機に加え、オイルタンカー約12台分に相当する大量の化学物質を打ち上げる必要がある。
さらに放出した化学物質は光イオン化すると使い切りになり、補充はできない。一度だけの使い捨てのシステムなのだ。
効果も一時的で、放出した化学物質は約6時間で磁気圏の外へ排出される。太陽嵐がいつ地球に届くかを予測し、そのタイミングに合わせて放出する必要がある。
論文によれば、防御が最も必要になるのは地磁気嵐が激しくなる数時間から半日ほどの山場だ。効果が一時的なのは弱点ではなく、山場に合わせて放出する設計だからだとしている。
それでもウォルシュ准教授は、何もしない場合の損失の大きさを指摘する。
観測史上最大級とされる1859年の太陽嵐「キャリントン・イベント」では、電信線に強い電流が流れ、電信技士が感電し、事務所で火災が起きた。
同じ規模の嵐が現代を襲えば、送電網の被害だけで2.4兆ドル(約390兆円)に達すると試算されている。
ウォルシュ准教授は、ストームウォールが特定の国だけでなく、地球上のすべての人を守れると語っている。
地球規模の環境に人の手を加える試みは「ジオエンジニアリング(地球工学)」と呼ばれ、大気にエアロゾル粒子をまいて太陽光を遮り温暖化を抑える構想などがある。
ただし予想外の悪影響を心配する慎重論も根強い。
ストームウォールも、磁気圏に人工の物質をまくことへの影響や、どの化学物質が最適かは、まだ十分に検証されていない。
この研究でわかったこと
- 磁気圏に人工のプラズマをまくと、地磁気嵐の強さを50%以上減らせる可能性がある
- 放出した物質は約6時間で自然に排出され、宇宙ゴミになりにくい
身近な例に例えるなら?
川の氾濫を予想して逃げる代わりに、あらかじめ堤防を築いて水を防ぐようなものだ。太陽嵐がいつ来るか予測するだけだった今までの対策と違い、ストームウォールは地磁気嵐そのものを弱めて地球を守ろうとする。
まだわかっていないこと・今後の課題
- 打ち上げに巨額の費用がかかり、しかも一度きりの使い捨てになる
- 磁気圏に人工の物質をまくことの影響が、まだ十分に検証されていない
References: doi.org/10.1029/2025SW004846
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