今世紀に発生した熱波の4分の1と温室効果ガス大量排出者に関連性
肌感が研究結果として出るようになってきました。
新たな研究結果によって、2000年以降に発生した数百件の主要な熱波は、化石燃料とセメントからの温室効果ガス排出量と直接的に関連していることが明らかになりました。
大量排出者の温室効果ガスが熱波を頻発化・激甚化
研究チームは、今世紀に入ってから発生したすべての熱波のうち、最大で4分の1は、世界各地の化石燃料とセメントを生産する上位14事業主体による温室効果ガスの排出がなければ、「事実上起こり得なかった」と結論づけています。
科学誌 Nature(ネイチャー)に発表された研究結果によると、世界最大クラスの石油・ガス・セメント生産企業180社の排出した温室効果ガスが、過去20年以上にわたる気候変動に著しく寄与していたとのこと。
研究チームは、今世紀に入って発生した213件の熱波と温室効果ガス排出が関連しており、炭素汚染が極端な暑さをより発生しやすく、より激しくしていると指摘しています。
213件の熱波のうち53件は、温室効果ガスの影響で発生確率が1万倍以上高まったのだとか。1万倍って…。
大量排出者の法的責任を問う動き
専門家は、この研究結果が世界最大の汚染企業に対して、排出がもたらした影響への法的責任を問う動きを後押しする可能性があるといいます。
去る今年7月には、国際司法裁判所(ICJ)が、気候変動による被害を防止しなかった国家は賠償責任を負う可能性があるとする歴史的な勧告的意見を出しました。
5月には、ドイツの上級地方裁判所が、主要排出国は気候変動による影響の法的責任を問われる可能性があると判断。アメリカでも、バーモント州とニューヨーク州が、化石燃料産業の責任を問う法律を成立させています。
しかし、それでも2004年以降の数多い気候訴訟で、排出者が気候変動を引き起こしたとして罰せられた判例は1件もないそうです。
スイス連邦工科大学チューリッヒ校の気候学者で、論文の主執筆者を務めたYann Quilcaille氏は、Natureに対して次のように話しています。
科学者としては、これらの気象事象(熱波)に対する法的責任を特定することはできません。私に言えるのは、主要な炭素排出企業のそれぞれが熱波の発生に寄与し、その激しさと発生頻度を増加させているということです。
イベント・アトリビューション分析とは
この研究は、人間活動による温暖化が熱波を含む特定の極端な気象事象にどのような影響を与えているかを定量化するイベント・アトリビューション分析の一例です。
温暖化が将来の熱波の頻度と激しさを増加させるという科学的根拠はありますが、イベント・アトリビューション分析は、すでに発生した特定の熱波に温暖化がどのように寄与したかを明らかにすることを目的としています。
数十年にわたる研究に裏付けられたイベント・アトリビューション分析は、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)も支持する信頼性の高い手法とされています。
しかし、その限界も明確で、温暖化が存在しない地球と比較して、現在の温暖化した地球で特定の極端な気象事象の発生確率や深刻度がどれくらい高まったかを示すことはできても、温暖化がその極端な気象事象を「引き起こしたかどうか」を断言することはできません。
今回の研究では、特定の気象事象と「原因」との因果関係をアトリビューション分析で拡張的に捉えることで、大量排出者が熱波にどれほど寄与したかを推計しています。
研究者はその点について、論文で次のように述べています。
極端な気象現象のイベント・アトリビューション分析は、通常は気象事象を気候変動に帰属させますが、その原因にまでさかのぼって帰属させることはまれです。イベント・アトリビューション分析を原因にまで拡張することで、排出者から極端な気象事象に至る因果関係の連鎖を定量化できます。
世界の排出量の半分を占める「カーボン・メジャー」の重い責任
研究チームは、「カーボン・メジャー」と呼ばれる180にのぼる事業主体による歴史的な累積排出量を調査しました。ここには、化石燃料企業や国有企業に加え、各国が排出した化石燃料やセメント由来の排出も含まれています。
分析の結果、1850年から2023年までのカーボン・メジャーによる排出量が、世界全体の累積排出量の約57%を占めていたといいます。
さらに研究チームは、気候モデルを用いて、温暖化した世界と、温暖化していない世界における気温の傾向を比較し、2000年から2023年までに発生した213件の熱波に温暖化がどのように影響したかを分析しました。
その結果、主要な排出者と熱波の直接的な関連性が判明し、チームは「これらの熱波の4分の1は、気候変動なしでは事実上起こり得なかった」と結論づけるに至りました。大量排出者が熱波を発生させたわけではないけれど、その大量に排出された温室効果ガスによって、熱波が発生しやすい気候になっていたというわけです。
インディアナ大学の気候科学者で、今回の研究には参加していないChris Callahan氏は、APの取材に対して次のような見解を示しています。
これまで、気候変動に対する個々の排出者の寄与は小さすぎるか分散しすぎるかしていたため、特定の気象事象による影響と排出者を直接関連付けるのは不可能とされてきました。しかし、今回の論文や、その他の研究結果が明らかにしつつある科学は、それが誤りだったことを示唆しています。
ICJは7月の気候変動と国家の責任に関する勧告的意見で、「国家による排出量を特定するのは可能」としていましたが、小さいスケールで排出者による異常気象への寄与度がわかるようになったことは、汚染企業の責任を問い、温暖化対策を強化するうえで、極めて重要な転換点になるかもしれません。
Source: Nature (1, 2, 3, 4), IISD, Germanwatch, AP (1, 2, 3)