政治的二極化が急速に進んだのは「友人が増えたから」かもしれないと研究者らが主張
近年は世界各国で保守派とリベラル派の対立が激しくなっており、政治的二極化の進行による社会の分断や混乱が問題視されています。そんな中、オーストリアに拠点を置く研究組織であるComplexity Science Hub(CSH)の研究チームが、政治的二極化が急速に進んだのは「友人が増えたから」だという研究結果を発表しました。
Researchers Find Possible Cause For Increasing Polarization
https://csh.ac.at/news/researchers-find-possible-cause-for-increasing-polarization/CSHの複雑系研究者であるステファン・サーナー氏は、「私たちだけでなく多くの国々が現在取り組んでいる大きな疑問は、なぜ近年は分極化がこれほど劇的に進んでいるのかということです」と指摘。そこでサーナー氏らの研究チームは、「人々の親しい友人関係の変化」が政治的二極化に及ぼした影響について調査しました。
サーナー氏は、「社会学的研究は数十年にわたり、人々が平均して約2人の『親しい友人』、つまり重要な問題に関する意見に影響を与える可能性がある友人を維持していることを示してきました」と述べています。研究チームは政治的二極化の進行について測定するため、アメリカ人の政治的態度を定期的に記録してきたピュー研究所による、2万7000件以上の調査結果を調べました。これらのデータを扱うことの利点は、質問の実質的な内容がほとんど変更されていないため、信頼性の高い長期的な比較ができる点だとのこと。
分析の結果、アメリカ人の政治的態度は1999年~2017年にかけて、著しく偏ってきたことがわかりました。たとえば、1999年の時点で一貫してリベラルな見解を表明した回答者はわずか14%でしたが、2017年には31%にまで増加していました。同様に、1999年の時点で一貫して保守的な見解を表明した回答者は6%にとどまりましたが、2017年の時点では16%に増えていました。
この結果について、CSHの博士課程研究員であり研究チームの一員でもあるマルクス・ホーファー氏は、「リベラルと保守的な見解を併せ持つのではなく、多くの人が明確にどちらかひとつの政治的陣営にますます寄ってきています」と述べています。
続いて研究チームは、人々の友人関係がどのように変化したのかを調べるため、アメリカやヨーロッパに住む合計5万7000人以上の回答者を含む、30件の異なる調査を組み合わせました。個々の調査ごとに多少の違いはみられたものの、2000年の時点では親しい友人の平均人数が2.2人だったのが、2024年には4.1人へと増えていました。さらに、政治的二極化と親しい友人の急増は、ソーシャルメディアやスマートフォンが普及した2008年~2010年に起きていることがわかりました。研究チームは、これらの技術革新が人々のつながり方を根本的に変え、間接的に政治的二極化を促進した可能性があると主張しています。
ホーファー氏は、「この研究における決定的な貢献は、数学的な社会モデルを使って両方の現象を調和させたことです。これにより、接続性が増加して臨界的な接続密度を超えると、水が氷に変わるといった物理学の相転移のように、突然の分極化につながることを証明できました」とコメントしました。
親しい友人の数が増えることが政治的二極化につながるメカニズムについて、CSHの博士研究員であり研究チームの一員でもあるヤン・コーベル氏は、「人々がより密接につながると、異なる意見に遭遇する頻度も高まります。これは必然的に紛争の増加を招き、ひいては社会の分極化をさらに深めることになります」と説明しています。 サーナー氏は、「友達が2人いるなら、私は2人との関係を維持するためにあらゆることをするでしょう。私は2人に対してとても寛容になれます。しかし友達が5人いると、そのうちの1人との関係が悪化してもまだ『バックアップ』がいるので、その友情を終わらせるのは簡単です。もう、それほど寛容になる必要はなくなってしまうのです」と指摘しました。
以前から政治的な分極化は存在してきましたが、近年は各集団内でのつながりがさらに緊密になったことで、意見が異なる集団間での交流がほとんどありません。この点が問題を深刻化させているとのこと。コーベル氏は、「こうした『バブル(フィルターバブル)』の間に橋渡しとなるものがほとんどなく、たとえ存在するにしてもしばしば否定的、あるいは敵対的なものになります。これはフラグメンテーション(断片化)と呼ばれ、新たな社会現象を象徴しています」と述べました。
サーナー氏は、「民主主義は社会のあらゆる部分が意思決定に関与することを前提としており、そのためには誰もが互いにコミュニケーションを取れることが必要です。しかし、集団が互いに話し合わなくなると、この民主主義のプロセスは崩壊してしまいます」と指摘。その上で、社会の分断を防ぐためには異なる意見への対応方法を早期に学び、積極的に寛容さを育むことが重要だと強調しました。・関連記事 ソーシャルメディアは政治の二極化を引き起こすのか? - GIGAZINE
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