「氷河」の定義を知っていますか?温暖化でとけた氷河から温室効果ガス「メタン」が放出されている不都合な真実

──さて、紺屋さんご自身のご専門は氷河ですが、どのような研究をされているのでしょうか。 

もともとは、地球上の氷河がどれくらい減っているかをモニターする仕事をしていました。これが氷河学のメインストリームといっていいでしょうね。もちろん、1人の研究者だけでは全体を見ることができません。

そのため、各国の多くの研究者がそれぞれ自国の氷河やアクセスしやすい氷河を調べて、その報告を集めたデータベースを作成しています。そのデータベースを参照して、ほかの氷河と比較することで、自分が調べている氷河に対する理解も深まるんです。

──氷河の減少とは、具体的にはどういうことでしょう。 

科学的には量を評価するわけですが、簡単にわかるのは面積の変化です。世界にあるほとんどの氷河は面積が縮小しており、なくなってしまった氷河もあります。以前、私が観測に行っていたモンゴルの氷河は100年前の写真が残っているのですが、これは見ただけでかなり様子が変わったことがわかりました。

モンゴルにある氷河の変化。左は1911年にロシア人によって撮影されたもの。右は2010年に紺屋さんが撮影したもの(写真提供:紺屋恵子/JAMSTEC)

スイスのローヌ氷河などは、観光客にも減ったことがわかるでしょう。もともと氷河の末端にホテルが建てられたのですが、氷河が減って後退してしまったので、いまはかなり移動しないと見ることができません。「昔はここまで氷河でした」という標識もあるので、どれだけ減ったかが誰でも実感できると思います。

氷河を覆う「ブラックカーボン」はどこから?

──量的な変化のほかには、氷河についてどのような研究をされていますか? 

ブラックカーボンの調査をアラスカでやっていたこともあります。氷河の上の雪に、炭素を含むススのような黒い物質(ブラックカーボン)があって、その影響で氷河が解けやすくなっているのではないかという仮説があるんですね。

ブラックカーボンは太陽光を吸収するので、氷河の表面にくっつくと太陽光の反射率を下げて、氷を解かす可能性があります。ただ、私が測った場所ではブラックカーボンの量があまり多くなかったので、氷河への影響もそれほどありませんでした。

(撮影:森清/講談社写真部)

──アラスカのブラックカーボンは、どこから来るんですか? 

大気の流れから考えて、主に中国から飛んでくるものが多いといわれています。ロシアからも来てますね。自然起源のブラックカーボンもないわけではありませんが、半分以上は人為起源でしょう。石炭を燃やしたときにできるススのような燃料系のブラックカーボンが多いと思われます。

関連記事: