「3次会のバー」は私用か業務か 上司のセクハラで適応障害、初の労災認定が投じる一石

飲み会が増える年末年始。上司世代はあまり話しすぎないことが大事だという

会社の公式行事として開かれた飲み会の後、3次会で上司からセクハラを受け適応障害を発症したと訴えた30代女性について、大阪地裁が12月、「労働災害」と認定した。労災認定の要件は、業務に起因して障害などが起きたと認められること。自由参加の2次会以降は「業務ではない」と判断されることが多く、女性の代理人弁護士によると、3次会のセクハラが労災認定されるのは初めてという。今回認められた要因はどこにあったのか。

バーでキス強要

原告女性は当時、東京に本社を置くIT関連企業の西日本支社に勤務。令和元年6月、本社の経営計画発表会のために出張し、発表会後に会社主催の懇親会に出席した。

その後、3次会で支社長を含む計4人でガールズバーに行った際、支社長からバーの女性店員とのキスを強要されるなどした。セクハラ発言は日常的にもあり、女性は体調を崩して翌7月末から出勤できなくなった。

女性は労働基準監督署に8月末から約1カ月分の休業補償を求めたが、労基署は3次会への参加は「個人の意思」という従来の判断を踏襲。労災には当たらないとして給付を認めず、女性は訴訟に踏み切った。

判決「誘い断るのは困難」

訴訟の焦点は、女性の適応障害が事業主の支配下にある状態で起きたという「業務遂行性」が認められるか否か。大阪地裁(中島崇裁判長)は7年12月15日、これを認めて不支給処分を取り消した。

判決理由で地裁が重視したのは、女性が3次会に参加した経緯だった。

女性が結んでいたのは6カ月間の有期雇用契約。支社長は女性を正社員に登用するかどうかの判断に強い影響力を持っており、出張前には「夜の予定は空けておけ」と指示もしていた。

地裁はこれらを踏まえて「誘いを拒絶することは事実上困難」と指摘。3次会への参加は業務そのものではない「私的な行為」としつつ、社命による出張中という状況も含めて「業務遂行性」を認めた。

女性は会社と支社長に損害賠償を求める訴訟も起こし、165万円の支払いを命じる判決がすでに確定している。女性の代理人を務めた位田浩弁護士(大阪弁護士会)は「2次会、3次会でも状況によって労災になることが明確となった」と判決の意義を強調。「軽率な言動には気をつけるべきだ」と話す。

上司世代、飲み会敬遠も

忘年会、新年会、歓送迎会-。この時期は職場の飲み会が重なるシーズンだが、コンプライアンス(法令順守)を重視する風潮の中で、むしろ上司世代が飲み会を敬遠している、というデータもある。

転職サービスを展開するパーソルキャリア(東京)の「Job総研」が421人から回答を得た調査では、7年中に職場で忘年会が開催されると回答したのは69・1%。実施率は新型コロナウイルス禍前の元年(46・1%)を大きく上回った。

「参加したい」と回答したのは、20代が最多で71%。30代=57・8%▽40代=55・1%▽50代=48・3%-と、年長になるほど参加意欲は下がっていた。

最も低かった50代では消極的になる理由として「プライベートを優先したい」(34・6%)に次いで、「飲み会のノリについていけない」(21・2%)を選んだ人が多かった。

「飲み会での発言リスク」を指摘する声もあり、同社広報の高木理子さんは「『ハラスメントリスク』に対する意識の高まりで安易に話題に入り込めず、心理的な壁を感じていると読み取れる」と説明する。ただ上司世代が気をつかうことで、逆に若手はつながりを感じる場として飲み会を歓迎するようになっている面もあるという。

普段からの関係構築が重要

ビジネスコミュニケーションに詳しい龍谷大心理学部の水口政人教授は上司世代を「飲み会で人間関係をつくって仕事につなげてきた世代」とみる一方、コロナ禍を経て社会に出た若手は「飲み会のコミュニケーション経験値が低い」と分析。世代間ギャップに加え、ハラスメントに敏感な風潮から上司世代が「飲み会を怖がるようになってきた」と感じている。

水口教授は、飲み会は職場の活性化を図る有効な手段になるとした上で「あくまで日常の延長線上にあるもので、普段から関係の土台を作っておくことが必要だ」と強調。飲み会での上司世代の〝会話術〟として、8割は部下に話をさせる▽自己開示を強要しない▽仕事の話はポジティブ面のみにする-という3点をアドバイスした。(永井大輔)

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