アルゼンチン中間選挙で与党大勝 ミレイ政権の「チェーンソー」緊縮に追い風

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画像説明, アルゼンチンのミレイ大統領率いる与党は、中間選挙で41%近い得票率で圧勝した

南米アルゼンチンで26日、中間選挙があり、ハビエル・ミレイ大統領率いる「自由の前進(ラ・リベルタ・アバンサ、LLA)」が圧勝した。ミレイ政権は発足から2年間、大胆な歳出削減と自由市場改革を実施してきた。

与党「自由の前進」は得票率約41%を獲得し、上院の改選24議席中13議席、下院の同127議席中64議席を獲得した。この勝利によって、国家支出の削減と経済の規制緩和を進める大統領の政策推進が、はるかに容易になる。

ミレイ大統領を支持するドナルド・トランプ米大統領は今回の投票に先立ち、アメリカが最近発表した400億ドルの対アルゼンチン支援策について、ミレイ大統領の与党が中間選挙で勝利することが、支援実行の前提条件だと言明していた。

トランプ大統領のこの発言をミレイ大統領の支持者たちは歓迎したが、同大統領に批判的な勢力は、トランプ大統領によるアルゼンチンへの内政干渉だと反発した。

中間選挙の結果を受けてミレイ大統領は、トランプ大統領の支援を念頭に支持者たちに向かって、「我々は、アルゼンチンの歴史を今度こそ一気に立て直すため、歩き始めた改革の道を確かなものにしなくてはならない(中略)アルゼンチンを再び偉大な国にするために」と強調した。

今回の選挙前、ミレイ大統領率いる与党の議席数は上院でわずか7議席、下院では37議席に過ぎなかった。

そのため、ミレイ政権の歳出削減および改革の政策は、さまざまな政治的障害に実現が妨げられていた。

国立大学、障害者、小児医療への公的支出拡大を求める法案に、ミレイ大統領は次々と拒否権を発動したものの、それはすべて野党議員によって覆されていた。

ミレイ大統領は26日、ブエノスアイレス市内のホテルで中間選挙の結果を見守った。与党圧勝が明らかになると、ホテルの外には、数百人の支持者が集まり、歓声を上げた。

「これまでは議会の15%がミレイを支持していなかったが、前より多くの下院議員と上院議員を得て、(大統領は)今後1年で国を変えられるようになる」と、若い有権者の一人、ディオニシオさんは述べた。

「我々の州は以前の政権によって荒廃した」のだと、別の有権者のエセキエルさんは話した。「神様のおかげで今回は自由が勝った。私たちの娘には、この美しい国で育ってほしい。この数年間の出来事は、残念だった」とも述べた。

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画像説明, ミレイ大統領の支持者たちが通りに出て選挙結果を祝った

今回の選挙は、2023年に就任したミレイ大統領にとって、初の全国的な審判だった。大統領は国家支出を縮小するために、たとえとしての「チェーンソー」を駆使すると繰り返し、選挙集会では実際にチェーンソーを振りかざした。

政権発足後には教育、年金、医療、インフラ、補助金の予算を削減し、数万人の公務員を免職させた。

トランプ大統領を含むミレイ支持者たちは、ミレイ大統領によるインフレ抑制を称賛する。ミレイ政権の発足以前、アルゼンチンのインフレ率は年間3ケタに達していた。

ミレイ大統領はさらに財政赤字を削減し、投資家の信頼を回復させた。一方、批判勢力は、その代償として雇用喪失、製造業の衰退、公共サービスの崩壊、購買力の低下が起きているほか、景気後退が切迫していると批判する。

トゥクマン州で障害児教育にかかわるジュリアナさんは、議会で大統領の影響力が増したことで障害者支援の予算を増やす法律が危ういと懸念する。選挙前には、ミレイ大統領はこの法律を拒否したが、野党がその拒否権を覆していた。

「私たちの給料は安いし、ほかの値段は上がっているのに、給料は変わらない。まだ変化は見えていない」とも、ジュリアナさんは話した。

退職警官のベロニカさんは、ミレイ政権による年金削減の影響を受けている。

「貧困が目立つ」とベロニカさんは言い、「とても厳しい。退職者にとっても、障害児を持つ人々にとっても、若者にとっても。失業が多く、多くの工場が閉鎖された」と話した。

ミレイ大統領はこれまで、ペソを支えることでインフレを抑えてきたが、その結果としてペソは過大評価され、来年に迫る200億ドルの債務返済を前に外貨準備が枯渇している。

このことから、アルゼンチンが経済危機に向かって突き進んでいるのではないかという懸念が生まれている。

さらにこれに加えて、9月のブエノスアイレス州での選挙結果が思わしくなかったため、ミレイ政権の歳出削減政策が政治的に持続可能ではないのではないかと、金融市場は懸念していた。

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画像説明, ミレイ大統領は、緊縮財政など「チェーンソー」改革を公約して当選した

アメリカはこうした状況で、アルゼンチン支援に乗り出し、通貨スワップ、ペソの買い入れ、民間投資の手配などを組み合わせた形で、アルゼンチンに最大400億ドルの支援を提供している。

「(ミレイ大統領が)勝てば、我々は支え続ける。彼が勝たなければ、我々は出ていく」とトランプ大統領は脅していた。

今回の選挙に先立ち、ミレイ政権の緊縮財政政策に対する有権者の疲弊感や、与党を揺るがした一連の汚職スキャンダルなどを受け、大統領の政治的将来に対する疑念が高まっていた。

今回の投票率は67.9%で、数十年ぶりに全国選挙としては最低水準だった。あらゆる政治家に対して有権者の間に広がる、全般的な無関心を示している。

「ミレイにはあと2年ある。できることをやるべきだ」と、ブエノスアイレスで事業を経営するダルドさんは話した。「この国は正しい道を進んでいると思うが、中間層と労働者階級が、あまりにも苦しんでいる」。

ダルドさんは、アメリカからの支援が役立つとは思えないと言い、「いずれこちらがその代償を払うことになるはずだ」と述べた。

政治学を学ぶ学生のティアゴさんは、財政均衡の必要性は理解しつつ、ミレイ大統領の手法を疑問視している。「病院、インフラ、障害者への投資が不足している」、「提示されている希望はある種、偽物だ」とディアゴさんは話した。

しかし、アルゼンチン人の多くは、ペロン主義の国には戻りたくないと思っていることを、今回の選挙結果は示した。ミレイ大統領は、数十年にわたる経済政策失敗の原因はペロン主義にあると批判し続けている。

「アルゼンチン人は、失敗したモデル、インフレのモデル、(中略)役に立たない国家のモデルに戻りたくないのだと、それを(選挙で)示した」のだと、ミレイ大統領は宣言した。

金融市場はこの勝利を受けて、急騰すると予想されている。少なくとも現時点では、ミレイ大統領が政治的に生き延びたことで、彼の経済実験が続くことも意味する。加えて、アメリカからの支援も。

選挙によって有権者の信任をあらためて得たミレイ大統領は、再選を目指すかもしれない2027年の大統領選挙に向けて、より急進的な改革を実施できるようになった。

今後は、一般の有権者が生活の改善を実感できるようになるのか、あるいは政府による歳出削減の痛みが再び国民の忍耐を試すことになるかどうかが、課題となる。

今のところはかなりの割合の有権者が、今回も、ミレイ大統領に猶予を与えることにしたようだ。

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