伝説的希少種、アジアのユニコーンと呼ばれる「サオラ」のゲノム解析に成功
あまりにも希少すぎて「アジアのユニコーン」と呼ばれるようになったベトナム、ラオスに生息する「サオラ」のゲノム解読に成功したそうだ。
顔の白い模様とまっすぐ伸びた一対のツノが印象的な「サオラ(Pseudoryx nghetinhensis)」は、2013年以降、まったく目撃されておらず、すでに絶滅したとの懸念もある幻の動物だ。
だがもしもまだ手遅れでないのならば、この動物の完全なゲノム情報が、絶滅のピンチから救う大いなる希望になるかもしれない。
この研究は『Cell』(2025年5月5日付)に掲載されたものだ。
「サオラ(Pseudoryx nghetinhensis)」は、ベトナムとラオスの山岳森林に生息するウシ科の動物で、「ベトナムレイヨウ」や「ブークアンオックス」とも知られている。
「アジアのユニコーン」との異名があるように、まっすぐ長く伸びた一対のツノが神秘的な雰囲気をかもしだす。
この画像を大きなサイズで見る1999年、ラオスの森林で撮影された野生のサオラ image credit/Ban Vangban Village & Wildlife Conservation Societyだが伝説の動物の名で呼ばれるのは、そのツノのためばかりではなく、伝説級に珍しいことも関係している。
サオラがようやく科学的に記載されたのは、1993年とかなり最近のことだ。
しかもそれ以降、動物学者が野生の個体を直接観察できた試しはない。地元住民によって十数頭ほど捕獲されたことはあるが、いずれも数か月以上生きることはなかった。
国際自然保護連合(IUCN)の推定によれば、個体数はすべて合わせても50~数百頭ほどで、「絶滅寸前」に分類される。
前回確認されたのはもう10年以上前のこと。2013年に仕掛けカメラに映ったのが最後で、すでに絶滅した可能性も否定できない。
この画像を大きなサイズで見る2013年にベトナムのカメラトラップに捉えられた、生きたサオラの最後の写真(画面右側)WWF-Vietnam仮にサオラがまだ生存しているのならば、今回のニュースは希望の光になるかもしれない。
コペンハーゲン大学をはじめとする国際的な研究チームは、サオラ26頭から採取された皮膚・体毛・骨などの組織から、そのゲノムの解読に成功した。
ここからサオラについて、驚くべき事実が明らかになっている。
1つは悪い知らせだ。彼らの遺伝的多様性は、最終氷期以来ずっと減少し続けていたのだ。
研究チームの推測によると、過去1万年間で、同時期に存在した個体数が5000頭を超えたことは一度もなかった可能性が高いという。
だが嬉しい知らせもある。サオラには遺伝的にそれぞれ特徴的な「北部」と「南部」の2つのグループがあるのだ。
どちらのグループもだんだんと遺伝的多様性を失いつつあるが、それぞれが失った部分は同じではないため、お互いに補完し合える可能性がある。
デンマーク、コペンハーゲン大学の生物学者ヘニス・ガルシア・エリル氏がニュースリリースで語ったところによると、この分岐はおよそ5000~2万年前に起きたと考えられるという。
サオラを飼育下で繁殖しようという動きはあるが、当初懸念されたのは彼らに十分な遺伝的多様性があるかどうかだった。
だが、今回2グループの存在が明らかになったことで、希望を抱けるようになった。
それぞれのグループで失われた遺伝的多様性は、もう一方のグループに残されています。だから両者を交配させれば、お互いに補い合えるかもしれません(エリル氏)
コペンハーゲン大学の生物学者ラスムス・ヘラー氏によると、少なくとも12頭、理想的には両グループからの個体で繁殖グループを作ることができれば、長期的な生存の可能性は十分にあるとのことだ。
この画像を大きなサイズで見る1996年に飼育されていたメスのサオラ William Robichaud今、最大の難関はそのために野生の個体を集めることだ。
何しろ10年以上もの間1度も目撃されていないのだから、すでに手遅れなのではという嫌な予感も頭をよぎる。
だが、少なくとも今回のゲノム解析により、これまでよりたくさんの手がかりがあることは間違いない。
たとえばヒルが動物を吸血することで体内に取り込まれたDNAから、付近にサオラがいないかどうか探るというやり方がある。
この方法はこれまでも試みられ失敗に終わってきたが、完全なゲノム情報がある今、その検出精度はこれまでよりもずっと高くなると期待されるそうだ。
References: Saving the Asian Unicorn – If It Still Exists – University of Copenhagen / Genomes of critically endangered saola are shaped by population structure and purging: Cell
本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。