日銀会合注目点:米関税受けた経済・物価見通しと総裁会見-政策維持へ

日本銀行が30日と5月1日に開く金融政策決定会合では現状維持が決まる見通しだ。新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)と植田和男総裁の記者会見で、トランプ関税を受けた経済・物価の見通しとリスク、先行きの金融政策運営についてどのように言及するかが注目点となる。

  複数の関係者によると、トランプ米政権の関税政策による金融市場の不安定化や経済・物価の下振れリスクの高まりを踏まえ、日銀は今回会合で現在0.5%程度の政策金利を据え置く見込み。ブルームバーグが16-22日に実施したエコノミスト調査では、全員が政策維持を予想した。

  展望リポートでは、見通し期間が2027年度まで1年延長される。米関税の影響を踏まえた実質国内総生産(GDP)と消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)の見通しとリスク、それを踏まえた2%の物価安定目標の実現性や利上げ路線の変化の有無が焦点となる。

  賃金・物価は日銀の想定より強めで推移しており、現時点で賃上げモメンタムや基調的な物価上昇率の腰折れまで想定する必要はないと関係者は指摘。見通し期間内に基調物価が目標の2%程度で推移する物価目標実現シナリオと、見通し実現に応じて金融緩和度合いを調整していく利上げ路線はおおむね維持されるとみられている。

  オックスフォード・エコノミクスの長井滋人在日代表は、展望リポートの経済・物価見通しは関税の想定次第で大きく変わるが、「交渉途中の政府との関係上、過度に悲観的な想定は置けない」と指摘。日銀は「正常化路線維持の姿勢も継続したい」とし、見通しは実態より楽観的なものとなり、不確実性だけを強調するとみる。

  もっとも、関税措置は米中の報復合戦や日本の輸出減少、家計・企業心理の悪化などを通じて世界・日本経済を下押しするのは確実。関係者によると、実質GDPとコアCPIの見通しは1月の前回リポートから下方修正となる可能性がある。26年度までの見通し期間の後半とした物価目標の実現時期の後ずれも視野に入るという。

  前回リポートでは、実質GDPの前年比は25年度が1.1%増、26年度が1.0%増、コアCPIはそれぞれ2.4%上昇、2.0%上昇となっていた。今回リポートで初めて示す27年度のコアCPI見通しは2%近辺が見込まれている。

  目標達成時期が後ずれした場合、市場が想定する半年に1回程度の利上げペースや今回の利上げ局面でのターミナルレート(最終到達点)に影響する可能性がある。エコノミスト調査では、米関税を受けてエコノミストの早期利上げ予想が後退し、ターミナルレートの想定は中央値で1%と前回3月調査の1.25%から低下した。

  貿易赤字削減の観点からトランプ大統領はドル安を望んでいるとみられており、為替動向への関心も高い。先週の日米財務相会談では、米側から円高・ドル安が望ましいとの発言はなかったとされるが、米関税を受けた日銀の政策姿勢を市場は注視している。貿易戦争への懸念がドル資産売りに発展する可能性も警戒されている。

ブルームバーグ・エコノミクスの見方

「植田和男総裁は、基調的な物価上昇率が2%の目標に近づく中で、日銀が引き続き政策金利を引き上げていく方針を強調すると予想している」

木村太郎シニアエコノミスト

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他のポイント

  • 植田総裁は、米関税による国内物価の上振れ要因にサプライチェーン(供給網)の混乱を挙げている。ただ、関税の直接的な影響としては考えづらく、リスクに位置付けられる見込み
  • 展望リポートで新たな経済・物価見通しを示すにあたり、米関税について一定の前提条件が示される可能性がある。同時にシナリオ実現の不透明感を指摘も
  • 6月会合で議論する国債買い入れ減額計画の中間評価を巡る総裁発言にも注目。現行計画終了後の26年4月以降の減額の在り方では市場にさまざまな意見があり、日銀は5月20、21日の債券市場参加者会合で意見交換する
  • 3月26日に就任した小枝淳子審議委員が初参加。安達誠司前審議委員の後任

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