声優らの“公認AI音声”を展開する「VOICENCE」 NTT西

NTT西日本は、声優や俳優・タレントなどアーティストの“声の権利”をデジタル技術で保護し、同時にAIで価値を高めていく新事業「VOICENCE」(ヴォイセンス)を開始した。社内カンパニーを設置して機動的に事業を進める体制で、3年目に売上10億円、5年目に100億円規模の事業成長を目指す。

現在の日本には声優や俳優、アーティストや芸人といった「実演家」の「声の権利」を直接的に守る法律がなく、法整備が遅れている状況。また、生成AIの急速な発達によりフェイク音声が登場し、その拡散が問題になるなど実害も出てきている。

VOICENCEは、登録した音声にブロックチェーン技術を活用した真正性を付与して権利を保護する「ライツマネジメント」機能を提供。実演家はIPホルダーとして音声IPを登録できる。

音声コンテンツを利用したいクライアント企業向けには、NTT西日本が企画・制作をプロデュースする機能が提供される。VOICENCEでは生成AIを活用した“アーティスト公認の音声AI”が作成され、文章の読み上げだけでなく、生成AIによりユーザーとの会話も可能。このAIがどういう風に受け答えをするかといった“性格”に相当する部分は、アーティストごとに内容が調整される。

VOICENCEは、これら「ライツマネジメント」「コンテンツ企画・制作」の両方を管理・推進するプラットフォームとして構築される。

AI音声合成は、最新の音声処理技術により、数秒~数分の音声を入力するだけで本人の声の性質や話し方の特徴を再現可能。声色を保ったまま印象や口調の変換ができる「音声印象制御技術」を搭載するほか、多言語(日本語、英語、中国語、韓国語、フランス語、スペイン語の6カ国語)に変換する「クロスリンガル音声合成」も用意されている。

音声印象制御技術のパラメータ
クロスリンガル音声合成で6カ国語に対応
真正性証明書のイメージ

これにより、例えば“ブランド人格”を声で表現し、印象を統一して想起率を向上させたり、ファン向けとして「名前を呼んでくれるボイスメッセージ」のようなパーソナライズ体験を提供したりできる。多言語に展開できる技術でグローバル展開を進めたりインバウンド需要に活用したりすることも可能。

サービスのデモ用画面

サービスがスタートした10月27日時点で情報が公開された、VOICENCEに声を登録している許諾パートナーは、俳優の別所哲也、声優の花江夏樹と春日望、バーチャルタレントのKizunaAI(キズナアイ)。なお、キズナアイのコンテンツに声を提供しているのは春日望となる。

このほか、声の権利に関する法律の研究や権利保護の推進、有識者と連携したルール整備や運用基盤の構築なども進め、AI音声を信頼して利用できる環境の創出を目指す。

左から春日望、別所哲也、KizunaAI
花江夏樹

10月27日開催の発表会では、NTT西日本 VOICENCEカンパニー カンパニー長の花城高志氏が、VOICENCEの名前についてVoice、Licence、Essense(本質)という3つの意味を込めたことを紹介したほか、アニメなど世界で人気のコンテンツは豊かな表現力が源泉になっていると指摘する。

一方、権利保護の環境が遅れている音声コンテンツに対し、デジタル技術で正規ライセンス市場を整備し、さらに生成AIと組み合わせた“公認AI”にまで踏み込んで活用することで、「声の経済圏を作っていく」と意気込みを語った。

NTT西日本 代表取締役社長の北村亮太氏(左)、NTT西日本 VOICENCEカンパニー カンパニー長の花城高志氏(右)

花城氏はまた、NTT西日本という大きな企業でありながら、同社として新たな取り組みである、(子会社のような)カンパニー制で臨むことを紹介。「単なる大企業の新規事業ではなく、スタートアップの心で臨む新体制」と語り、パートナーと機動的に連携していく体制であることを語っている。

花城氏

ゲストとして登壇した俳優の別所哲也は、正規ライセンスで正当な対価が得られる仕組みや、“公認AI”により、これまで受けられなかった仕事にも対応できるとして「心躍る取り組み」と期待を寄せた。

ゲストとして登壇した俳優の別所哲也、KizunaAI

同じくゲストとして登壇したワタナベエンターテインメント顧問の中井秀範氏は、「(OpenAIの)Soraなどは、とりあえず広めてユーザーを囲い込み、後から認めてくださいというパイレーツ型(≒海賊版を容認する行為)」と指弾。生成AIの急速な発達に法整備が追いついていない現状や、問題がすでに表面化していることに警戒感を隠さない。VOICENCEでは「真正性を証明できるのは素晴らしいこと」とし、マネタイズや管理が行なえる点も評価していた。

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