地球温暖化はたいして影響ない? いい面もある? 「気候変動の解説のおじさん」東京大学・江守正多教授の答えは
気候変動や脱炭素について、ちまたで情報が錯綜(さくそう)している話の本当のところはどうなのか、科学者や専門家へのインタビューを通して探っていくこのシリーズ。 【写真】本当のところは… 人間システムにおいて観測された気候変動影響 今回は、「地球温暖化の影響はたいしたことがない」「地球温暖化にはいい面もある」といった話について、本当のところを探っていきます。 地球温暖化について研究し「気候変動の解説のおじさん」として情報発信にも取り組む気候科学者の江守正多・東京大学未来ビジョン研究センター教授に、さらに聞きました。(聞き手 ライター・編集者/小泉耕平) ========================== 江守正多(えもり・せいた) 1970年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。1997年より国立環境研究所に勤務。国立環境研究所気候変動リスク評価研究室長、地球システム領域副領域長等を経て、2022年より東京大学未来ビジョン研究センター教授。総合文化研究科教授を兼務。IPCC第5次、第6次評価報告書主執筆者、第7次評価報告書査読編集者。
──ここまでの世界の年平均気温の上昇ペースは、100年間で0.77度とされています。日本の場合はこれより速く、100年間で1.4度上昇しました。こうした数字を見て、「100年間で1度くらいの上昇なら、10年間でたった0.1度の変化。たいしたことないんじゃないか」という意見もあるようですが。 地球が直近で一番寒かったのは、最終氷期最盛期と呼ばれる約2万年前です。そこから、氷期から間氷期への変化があって、数千年かけて5度ほど気温が上がりました。これは地球からしたら極めて大きな変化なのですが、そのペースが数千年で5度です。100年で1度という変化のスピードが、いかに速いかがお分かりいただけるかと思います。 この急激な変化に、人間社会が、そして動植物の生態系がついていけるか、という点を議論しなければいけないのです。数字が小さいから大丈夫、などとイメージだけで考えてはいけません。 ──そもそも、日本は100年間で1.4度と、世界平均である0.77度の約2倍のペースで温暖化していますね。このあたりは、かなり地域差があるのですか。 その通りです。まず、陸のほうが海よりも温度が上がりやすく、世界平均の気温上昇ペースも、陸域に限ると100年間に0.91度になります。 地域差を見てみると、内陸部や高緯度地域の方が気温の上昇は急激になります。内陸部には気温上昇を和らげてくれる海がありませんし、高緯度地域ではそれまで太陽光を反射していた雪や氷が解けることで、熱をより吸収しやすくなるからです。 日本は中緯度で海に囲まれてはいますが、温度上昇が激しいユーラシア大陸内陸部の風下にあたることもあって、比較的、温暖化の影響を受けやすい地域だと言えます。 現在、世界各国は世界平均の気温上昇を産業革命前と比べて1.5度以内に抑えようと努力していますが、実際に世界平均で1.5度気温が上昇したとすると、その時点で日本はそれ以上に暑くなっていると考えられます。