クレアチンは脳にも効く? ──メンタルや認知機能を支える働きと摂取法を医学博士が解説
栄養補助食品(サプリメント)という魑魅魍魎の世界で、私たちが確信を持って話せることは多くない。とはいえ、クレアチンの健康への働きは“本物”だ。1日5gのクレアチンモノハイドレートを、定期的なレジスタンストレーニングおよび適切な栄養補給と併せて摂取すれば、筋肉を肥大させ、より筋力を高めることができる。これは筋トレマニアの独自研究ではない。研究者によって科学的に裏付けされていることだ。
クレアチンはすでに最も綿密に研究されてきたサプリメントのひとつである。それにもかかわらず、科学者たちは今もその仕組みの解明を続けている。何が科学者たちを駆り立てているのか? それはクレアチンが、脳機能に画期的な影響を及ぼす可能性が示唆されているためである。
「クレアチンが筋肉に貯蔵され、筋力、持久力、回復力を高めるのに役立つということはすでに知られていますが、同様に脳にも貯蔵され、メンタルヘルスおよび認知機能の面での幅広い働きが期待できることが、研究によってますます示されてきています」と、カリフォルニア大学アーバイン校スーザン・サムエリ統合健康研究所の統合医療および機能性医学フェローシップ栄養コース・ディレクターで、登録栄養士のアシュリー・コフ(RD)は言う。
「1日の標準的な服用量である5gよりも多くのクレアチンを摂取することが認知機能の向上に寄与する可能性があることを示す証拠が増えつつあります」と、マイアミ大学分子生物学部の研究リーダーである長寿と健康回復の専門家、ジェイソン・ソナーズ博士(DC、PhD)は話す。「より高用量の摂取では、血液脳関門を通過するクレアチンの量が増えた結果、脳内でのエネルギー産生が高まることが最近の研究で示されています」
これは画期的なことかもしれない。米版『GQ』は、専門家に信頼できる研究を参照してもらいながら、クレアチンの脳機能をサポートする力をどのように取り入れるべきかについて訊いた。
研究で裏付けられているクレアチンの働き
ペンシルベニア大学の研究者が2024年に学術誌『Nature』に発表した研究などから、クレアチン・サプリメントを摂取することで脳のクレアチン濃度が高まることがわかっている。しかし、ここで注意が必要な点がある。脳は厳重に管理されており、クレアチンを多く投与したからといって、それを活用してくれるとは限らない。少なくとも、コンディションが整った状態ではそうだ。
別の言い方をすれば、脳機能を向上させるクレアチンの能力は、脳がベストなコンディションでないときに最も発揮されるということである。
「脳のクレアチンレベルは厳密に制御されていますから、サプリメントを摂取しても大して上昇しない可能性があります。しかし、脳がストレスを受けていたり、クレアチンの値がそもそも低い場合は話が別です」と、マインドパス・ヘルスの認定精神科医、ジシャン・カーン医学博士(MD)は話す。つまり、睡眠不足の状態にあったり、精神的疲労を抱えていたり、食事から十分なクレアチンが摂れていない場合であれば有効ということだ。カーンはさらに、クレアチンは健康で十分な休息が取れている成人が摂取した場合、「広範な実行機能に対する影響はまちまちであるか、あるいは認められない」と指摘している。
とはいえ、脳が疲れているときやストレスがかかっているとき(あるいはその両方)にクレアチンが発揮してくれる働きは、インターネットでの注目に十分値するものだ。最大21時間の睡眠不足を回復させるというクレアチン・サプリメントの働きが、最近SNSを賑わせていたのだ。
「あの21時間の睡眠不足の例は、単なる個人の体験談ではありません」と、ディーコネス・ヘルス・システム病院の神経学部長であり、認定神経科医であるルーク・バー医学博士(MD)は言う。彼は、2024年に『Nature』に掲載された臨床試験のような査読を受けた研究において、クレアチンが疲労、ストレス、その他の認知機能障害の悪影響を鈍らせることに特に長けていることがわかっていると指摘する。
「研究から導き出された結論のなかで最も検証されているのは、認知ストレス下での処理速度とワーキングメモリーについてです」と、バーは言う。医学ジャーナル『Experimental Gerontology』に掲載された2018年のメタアナリシスでは、クレアチンが短期記憶と論理的思考を有意に改善することが明らかにされ、2024年には中国の貴州師範大学の研究者による研究で、処理速度と集中力に緩やかではあるが一貫した改善が確認された。「これらの研究はいずれも、クレアチンが認知的ストレスを受けた脳において、ヌートロピック(向知性薬)としての役割を果たすことを立証するものです」と、バーは言う。
2023年には、クレアチンがうつ病、不安、さらには脳震盪のような外傷性脳損傷の影響を緩和する可能性を明らかにしたレビュー論文がスポーツ医学ジャーナル『Sports Medicine』に掲載されるなど、クレアチンが脳に及ぼす働きについての研究は続いている。
脳機能を向上させるためのクレアチン摂取量
筋力アップと筋肥大のためには1日5gのクレアチン摂取が理想的であることはよく知られているが、メンタルヘルスの向上に必要な摂取量はまだ正確には明らかになっていない。とはいえ、5gよりはかなり高い値が予想される。「その理由は、クレアチンが血液脳関門を通過しなければならないためです」と、センター・フォー・ニュー・メディシンのメディカル・ディレクターであるリー・エリン・コニリー医学博士(MD)は言う。これは、クレアチンにとって骨格筋組織よりも到達のハードルが高いことを意味する。
『GQ』の取材に応じた専門家たちは、認知機能に最も大きな影響を与えたと報告されている臨床試験での摂取量をもとに、1日10〜25gを少量ずつ数回に分けて摂取することを勧めている。コニリーによれば、この方法がクレアチンの脳組織への到達を助けるという。
留意しておきたいのは、私たちが話を訊いた専門家の誰も、4~8週間以上の長期にわたってこの水準を維持することを勧めていないことである。専門家たちは、脳を活性化させるためにクレアチンを特に大量に摂取するのは、ストレスが高まったり睡眠時間が短くなったりするであろうことが予想される短期間に留めるべきだと推奨している。
一方、急な睡眠不足やストレスに見舞われたときの影響を、比較的すぐに和らげるという点で、20〜25gをその日限り摂取するだけでも有望な研究結果が得られたとバーは言う。「私はクレアチンの力を信じていて、眠りが浅いと感じた日には20gを摂っています」と、カーンも話す。
クレアチンにリスクはあるのか?
クレアチンは最も安全なサプリメントのひとつとして広く認められており、万が一副作用が起きたとしても、胃腸の不快感や膨満感といった比較的軽い症状に限られる傾向がある。もちろん、人それぞれ異なるので、クレアチンをすでに摂っている場合でも、摂取量を4倍にしたいのであれば必ず医師に相談すべきである。何らかの疾患を抱えている場合は特にだ。
「稀なケースとして、腎臓に持病がある人は、医師の指導なしに多量に摂取するのは避けるべきです」と、バーは言う。「そのようなケースでない限り、クレアチンは市場で最も研究が進んだ、安全性の高いサプリメントのひとつといえるでしょう」
From GQ.COM
By Dean StattmannTranslated and Adapted by Yuzuru Todayama