1日3000~7500歩の歩行でアルツハイマーの進行抑制できる可能性 米研究
1日60分以上のウォーキングは,心臓と脳の両方に極めて好ましい効果をもたらす/Oscar Wong/Moment RF/Getty Images via CNN Newsource
(CNN) アルツハイマー病の初期症状がある高齢者は、毎日歩く歩数を増やすことで進行を遅らせることが可能かもしれないという研究結果が発表された。
アルツハイマー病にはベータアミロイドとタウタンパク質の蓄積が関係する。アミロイドは早ければ30代ごろから神経細胞の間の隙間に蓄積し始め、脳細胞間の情報伝達に影響を及ぼす可能性がある。アミロイドの蓄積が増えると異常なタウタンパク質が急激に広がって脳細胞内でもつれを引き起こし、細胞を死滅させる。
今回の論文は3日、医学誌ネイチャー・メディシンに発表された。筆頭筆者で米マサチューセッツ総合病院神経科医のワイイン・ウェンディ・ヤウ氏は、「身体活動はタウ(記憶の喪失と最も密接に関係するタンパク質)の蓄積を遅らせ、初期のアルツハイマー患者の認知機能の低下を遅らせる助けになるかもしれない」と解説する。
ヤウ氏によると、1日に3000~5000歩歩いた人は認知機能の低下を平均で3年遅らせることができ、5000~7500歩歩いた人は7年遅らせることができた。
この研究についてフロリダ州神経変性疾患研究所のリチャード・アイザクソン氏は、参考にはなるものの、歩数に頼るアルツハイマー病予防は単純すぎると述べ、「5000歩とか7000歩といった分かりやすい数字には注意するようにしている」と話す。同氏は遺伝的にアルツハイマー病のリスクがある人の認知機能改善について研究している。
「体脂肪が過剰な人や、糖尿病予備群や高血圧の人にとって、ただ一定数歩くだけでは十分とはいえない」「個々に合わせたプランが必要だ」(アイザクソン氏)
ベータアミロイドは減少せず
今回の研究は50~90歳の296人を対象に、14年間にわたって行われた。被験者は少ないものの、研究チームは客観的な評価基準を使って信頼性を高めている。
「この研究の強みは、高度なスキャンを行って脳内のアミロイドとタウの蓄積を測定し、認知機能評価と歩数を組み合わせた点にある」とオックスフォード大学のマスード・フセイン教授は指摘する。同氏はこの研究にかかわっていない。
歩数は歩数計で測定し、被験者は平均9年間にわたって毎年認知機能検査を受けた。開始にあたってはPET(陽電子放出断層撮影)検査を行ってアミロイドとタウの蓄積量を測定し、少数については研究終了時にフォローアップのPET検査を行った。
その結果、1日最大7500歩歩いた人は、タウタンパク質の蓄積を3~7年遅らせることができたのに対し、じっとしていることが多い人はタウタンパク質の蓄積がはるかに速く進行し、認知機能の低下や日常的な機能の低下が進行するペースも速かった。
ただ、身体活動と、タウの前に表れるベータアミロイドの減少の間に関係は見られなかった。
「アミロイド負荷の増大が一定量になると、歩数の増加がタウ蓄積の鈍化と結びついていた。認知機能低下が遅くなったこととの関係はこれでほぼ説明できる」とヤウ氏は解説する。
今回の研究で行ったのは観察のみで、直接的な因果関係を示すことはできていない。それでも、ウォーキングやストレス軽減、質の高い睡眠、植物由来食品中心の食生活など、心臓に良いとされる行動は脳にも良いという認識が裏付けられたと専門家は解説している。