“糖尿病患者”や『糖尿病予備軍』は「認知症」のリスクが高いってホント? 医師に聞きました

 公開日:2025/11/07

近年の研究により、糖尿病と認知症には深い関わりがあることがわかっています。じつは、まだ糖尿病と診断されていない「予備軍」の段階でも、認知症のリスクが高まる可能性があるのです。その理由と予防のヒントについて、永島メディカルクリニックの永島先生に詳しく教えてもらいました。

監修医師永島 秀一(永島メディカルクリニック)

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2001年山梨大学医学部卒業。自治医科大学附属病院のほか、地域中核病院や内科クリニックで勤務し、この間に自治医科大学大学院を修了。自治医科大学附属さいたま医療センター内分泌代謝科准教授を経て現職。日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本糖尿病学会 専門医・研修指導医、日本内分泌学会 内分泌代謝科(内科)専門医・研修指導医、日本動脈硬化学会評議員。

編集部

糖尿病だと認知症になりやすいというのは本当ですか?

永島先生

はい。認知症にはさまざまな種類がありますが、日本において最も患者数が多いのは「アルツハイマー型認知症」、次が「脳血管性認知症」です。糖尿病はこれらと非常に関連が深く、研究により糖尿病の人はそうでない人と比べて、アルツハイマー型認知症に1.5倍なりやすく、脳血管性認知症に2.5倍なりやすいことがわかっています。

永島先生

高血糖状態が続くと血管が傷つき、脳の血流が悪化します。また、インスリンが効きにくくなった状態のことを「インスリン抵抗性」と言いますが、これが起きると脳の炎症や神経細胞の機能低下が引き起こされるとも言われています。こうした複合的な要因で、認知症のリスクが高まるのです。

永島先生

血糖値をしっかり管理していれば、認知症の発症リスクは下げられます。ただし、糖尿病に伴う高血圧や脂質異常症などの生活習慣病も認知症に影響するため、全体的な健康管理が重要になります。

永島先生

糖尿病と診断された時点で、すでに脳においてなんらかの変化が始まっていることもあります。糖尿病の症状が軽くても、できるだけ早期からの血糖管理と予防意識が認知症のリスクを下げるカギになります。

永島先生

境界型糖尿病とは、空腹時血糖やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の数値が正常より高いが、糖尿病の診断基準には満たない状態のことをいいます。糖尿病予備軍」や「前糖尿病」とも呼ばれ、将来糖尿病に進行するリスクが高いとされています。

永島先生

はい。最新の研究では、境界型糖尿病の段階でも認知機能の低下リスクが上昇することがわかっています。HbA1cが6.0~6.4%の糖尿病予備軍は、HbA1cが正常(5.6%未満)の人に比べて、アルツハイマー型認知症を発症するリスクが1.30倍に上昇したということが報告されています。

永島先生

境界型糖尿病の多くは自覚症状がありません。しかし、脳や血管では静かに変化が進行している可能性があります。境界型糖尿病のうちに生活改善を始めれば、糖尿病も認知症も予防しやすくなります。

永島先生

健康診断の血液検査で血糖値やHbA1cで判断できます。空腹時血糖が100〜125mg/dL、またはHbA1cが6.0〜6.4%の範囲にあると、境界型糖尿病とされます。健診で「ちょっと高め」と言われたら要注意です。

永島先生

最も重要なのは生活習慣の見直しです。バランスのよい食事を心がける、運動習慣を身につける、体重管理をする、睡眠やストレスの対策をおこなうなどを徹底することで、糖尿病への進行を防げるだけでなく、認知症の予防にもつながります。

永島先生

糖質をとり過ぎないことに加え、野菜、たんぱく質、食物繊維をしっかりとることが大切です。それから、消化吸収がゆっくりで血糖値を急上昇させない食べ物のことを低GI食品と言いますが、食事をとるときにはこれらの食品を選択したり、間食を見直したりすることも有効です。

永島先生

無理に強度の高い運動をするのではなく、1日20〜30分のウォーキングや軽い筋トレを週3〜5回おこなうだけでも、血糖値とインスリン感受性の改善に効果があります。特に「食後に体を動かす」ことで、より効率的に血糖値をコントロールできます。

編集部

薬を飲まなくても境界型糖尿病のまま維持できますか?

永島先生

はい、生活習慣をしっかり改善できれば、薬物療法をおこなわなくても糖尿病に進行せずに済む場合は多いとされています。ただし、改善が難しい場合やほかの病気がある人には、予防的に薬を使うこともあります。医師と相談して判断しましょう。

永島先生

糖尿病は、認知症を含むさまざまな合併症のリスクを高める疾患です。合併症は進行してから気づくことも多く、生活の質に大きな影響を及ぼします。そのため、糖尿病は発症してからの治療だけでなく、早期からの予防と適切な管理が重要です。合併症を予防するために必要なのは、健康診断を定期的に受け、ご自身の血糖値や体の状態をきちんと把握すること。小さな変化を見逃さず、早めの対応を心がけましょう。

編集部まとめ

糖尿病は生活習慣と深く関わる病気です。日々の食事や運動習慣を見直すことが、合併症の予防につながります。気になる症状がなくても、定期的に健診を受けて健康を守りましょう。

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