世界各地の三角州が、海面上昇より速く沈んでいる:研究結果
河口付近に土や砂が堆積してつくられる三角州(デルタ)が占める陸地面積は、地球上のわずか1%にすぎない。しかし、そこには世界人口の4〜6%にあたる3億5,000万〜5億人が暮らしている。デルタは農業や漁業、港湾、都市にいたるまで、人間の生存に欠かせない機能を担っているのだ。
ところが、そんなデルタが世界各地で静かに沈み続けていることが、国際研究チームによる最新の観測結果から明らかになった。「これはデルタ全域の沈下を高解像度で観測した初めての事例です」と、カリフォルニア大学アーバイン校の助教で地球システム科学が専門のレナード・オヘンヘンは説明する。「デルタが沈んでいる場所を特定しただけでなく、今回の研究では地盤沈下の規模を定量化したのです」
オヘンヘンらの研究チームは、地球観測衛星「Sentinel-1」が撮影した合成開口レーダー(SAR)の画像を用いて、世界5大陸・29カ国にまたがる40カ所の主要なデルタにおける2014年から23年にかけての地盤変動を、75mという高解像度で計測した。
大規模な調査の結果、40カ所すべてのデルタで地盤沈下が起きていることがわかった。河川によってデルタの沈下速度には大きな差があり、カナダのフレーザー川では年間1mm未満だったのに対し、中国の黄河では年間1cm以上も沈んでいた。
世界各地の河川にあるデルタの地盤沈下の状況を示した図。評価対象となった40カ所における平均地盤沈下率を示しており、円は地盤沈下率に応じて色分けされている。円の大きさは海面上昇(SLR)よりも速く沈下しているデルタの面積の割合を表している。また、各地域の海面上昇率は、デルタ全体の流域/盆地全体にわたる色のグラデーションとして表示されている(流域/盆地の境界線は海面上昇の影響を受ける範囲を表すものではない)
特筆すべきは、13カ所のデルタで地盤沈下の平均速度が世界の海面上昇速度を超えている点だ。タイのチャオプラヤ川、インドネシアのブランタス川、そして黄河のデルタにいたっては、地盤沈下の速度が海面上昇速度の2倍以上に及んでいるという。
アレクサンドリア(ナイル川)、バンコク(チャオプラヤ川)、ダッカとコルカタ(ガンジス川・ブラフマプトラ川)、上海(長江)、ヤンゴン(イラワジ川)、カントー(メコン川)、タイビン(紅河)、新潟(信濃川)、ジャカルタ(チリウン川)、スラバヤ(ブランタス川)、東営(黄河)といった沿岸都市では、デルタ全体の平均と同等かそれ以上の速度で沈下が進んでいることも確認された。
このほか、40カ所のデルタのうち18カ所においては、地盤沈下の速度が地域の海面上昇速度を超えていた。これらの地域に住む人口は、約2億3,600万人に上る。なかでも標高1m以下の特に危険な低地に暮らす7,600万人のうち、実に84%(約6,370万人)が急速に沈む地域で生活しているという。
最大の要因は地下水の採取
研究チームが地下水貯留量の変化、堆積物流量の変化、都市の拡大という3つの指標を機械学習モデルで分析したところ、全体40カ所のうち10カ所のデルタでは地下水の採取が地盤沈下の主な要因であることが判明した。農業用水や工業用水、生活用水として大量の地下水を汲み上げてきた結果、地盤の大部分が内側の支えを失いつつあるのだ。
河川における堆積物の減少も、デルタの沈下を引き起こす大きな要因だという。ダムや堤防によって上流からの土砂がせき止められると、デルタに補充されるはずの堆積物が届かなくなる。特にエジプトのナイル川、イタリアのポー川、米国のミシシッピ川では、堆積物不足が深刻な地盤沈下を招いているという。