20年伸び悩む理系の女子学生比率、払拭されない「女は文系」の偏見 及び腰の政府目標

理工系の分野で活躍する女性と進路を考え始めた女子学生らが交流するイベント「STEM女子未来会議2025」が開催された=12日午後、東京都千代田区(三尾郁恵撮影)

大学の理工系分野に在籍する女子学生の割合が伸び悩んでいる。この十数年間でわずかしか増えておらず、「女性は数学や物理が苦手」というステレオタイプが影を落としているようだ。政府が掲げる目標も「前年度以上」と控えめで、「女らしさ」「男らしさ」といったジェンダー(性差)に基づくバイアスを克服する難しさを物語っている。

「結婚難しくなる」

「仕事と育児って両立できますか」。4月中旬、東京都心にあるビルのフロア。大学進学で理工系分野を目指す女子生徒たちが、理工系の学部や企業で働く先輩と交流し、キャリアステップを考えようというイベントで、女子高校生から率直な質問が飛んでいた。

慶応大理工学部出身でお茶の水女子大理学部で教鞭(きょうべん)を執る篠田万穂さん(33)は、学生の体験を振り返った。在籍した数理科学科には約50人の学生がいたが、女性は2人だけで、「男子の視線が気になり、勉強場所を移動しなければならないこともあった」と明かした。

男子は理系、女子は文系-。こうした偏見が女性の理系離れの一因となってきた。中央大理工学部4年の高橋彩乃さん(21)は「女子で理系だと就職や結婚が難しくならないか」と親に理工系の受験を反対された友人女性のエピソードを例に挙げ、ステレオタイプな見方が根強く残っていることを指摘した。「性別にとらわれず、勉強に集中したい」と訴えた。

高校2年の神田芙羽(ふう)さん(16)は「クラスに理系の女子は少なく情報が少ない」と話した。

目標「前年度以上」

女性の理系人材は、国際的な競争力を強化するためにも欠かせず、政府も理工系に進む女子生徒を増やす必要性は十分に認識している。

令和2年に閣議決定された第5次男女共同参画基本計画に基づき、研究者の出前授業や保護者向け講演会といった女子中高生に理工系の進路選択を促す施策を行ってきた。

しかし、抜本的な効果が出ているとはいい難い。文部科学省によると、6年度の理工系学部に在籍する女子学生の割合は理学部が28・3%、工学部が16・7%。17年前の平成20年からそれぞれ2・8ポイント、6・2ポイントしか伸びていない。

第5次男女共同参画基本計画で掲げられた目標は「前年度以上」と慎重姿勢で、具体的な数値目標が掲げられていない。

文科省の担当者は「進路決定に関わるため、具体的な数値を立てるというよりも、少しずつ前進していければいいという認識だ」と説明する。

女性の理工系人材の確保は喫緊の課題だ。目標値を定めないまま、どこまで実効性のある取り組みを加速させられるのかは不透明でもある。(塚脇亮太)

際立つ、理工系学部在籍の「日本の低さ」

大学の理工系学部に在籍する女性の比率を国際的に比較すると、日本の低さが際立っている。

2022年の経済協力開発機構(OECD)の調査によると、日本は理工系分野の大学入学者に占める女性の割合が約17・5%だった。OECDの平均は約31・7%で大きく下回っている状況だ。

米国では、1970年に8%だった比率を2019年に27%まで伸ばした。NPO法人の主導で、中学校や高校に女子生徒がプログラミングやコンピューターサイエンスを学べるクラブを開設した。州政府や企業も連携し、女子生徒が先輩たちと交流できるコミュニティーを立ち上げてきた。

1998年の28%を2021年に33%へと引き上げたドイツでは、小学校教育から官民が連携する。01年から年に1日、全国の10~15歳の女子生徒が大学や企業で理工系の仕事などを体験できるキャンペーンを実施している。9年間でSTEM(科学、技術、工学、数学)分野への進学者を2倍に増やした。

小中学生の理数系学力が世界トップレベルのシンガポールでも、政府が多くの企業と連携して理工系進学を促すプログラムを進めており、21年の比率は40%と国際平均を大きく上回っている。

各国の事例からは、官民連携の充実も一つのポイントといえそうだ。

横山広美・東京大教授(科学技術社会論)の話

理工系を学ぶ女子学生が増えないのは「女子は理系が苦手だろう」という「アンコンシャス・バイアス」と呼ばれる無意識の思い込みが強いからだ。実際は男女で学力の差はほとんどない。バイアスの解消には、政府が発想を転換して目標を見直すことが急務となる。

令和2年の第5次男女共同参画基本計画に示された「前年度以上」という目標からは、実現困難な数値を掲げて達成できずに批判されるのを恐れ、比較的実行が容易な目標を立てたという弱腰の姿勢が垣間見える。

社会状況が刻々と変化しているにもかかわらず、5年前の目標をいまだに指針として定期的な見直しがないことにも首をかしげざるを得ない。

政府が進める希望者参加型の理工系選択支援プログラムでは、もともと理工系に興味や関心がある生徒しか集まらない。理系に興味がない生徒に面白さを伝える手法を考えてほしい。理系科目の難易度や苦手意識が高まる中学教育の構造改革が必要だ。理工系の学びと実社会の結びつきを強く感じられるような授業設計が求められる。

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