“ストレスで飲酒”は脳を変質させる 断酒しても戻らず、中年になって変化への対応力が低下 米国チームがマウス実験:Innovative Tech

2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2

 米マサチューセッツ大学アマースト校に所属する研究者らが発表した論文「Impact of chronic alcohol and stress on midlife cognition and locus coeruleus integrity in mice」は、若い頃にストレス対処のために飲酒を始めると、その後長く禁酒しても中年期になって認知機能に悪影響が現れることをマウス実験で明らかにした研究報告だ。

 ストレス解消のためにお酒を飲むのはよくあることだが、若いころにこの習慣を始めると、その後何年も禁酒していたとしても、中年期になってから認知機能に悪影響が出ることがこの研究で明らかになった。

 アルコールには一時的にストレスを和らげる効果がある一方で、脳が自力でストレスに対処する力を奪ってしまう側面がある。そのため、ストレスを消そうとしてさらに酒量が増えるという悪循環に陥りやすい。

 実験では、若いマウスにアルコールと強いストレスを繰り返し経験させ、その後3カ月しっかり断酒させてから、中年になった時点で脳と行動を調べた。若い頃にストレスを酒で紛らわせるような経験が、脳に長期的な爪痕を残すのかを確かめる試みである。

 その結果、アルコールとストレスを経験したマウスは、断酒後の中年期になっても、進んで飲む酒の量が多いままだった。長くお酒を絶っていても、中年になって再びストレスを抱えると、また酒に頼りやすくなる傾向が確認された。

 脳の働きにも変化が見られた。新しい場所を覚える力は正常だったが、正解が変わったときにうまく切り替える柔軟性が低下し、前のやり方にこだわって間違いが増えた。つまり、記憶力そのものよりも、新しい状況や変化にとっさに対応する柔軟な思考力が損なわれていた。これは認知症の初期段階に見られる症状とよく似ている。

 なぜこうしたことが起きるのか。研究チームが「青斑核」という脳の部位を調べたところ、本来はストレスを感じるとオンになり、落ち着くとオフに戻るはずの働きが、アルコールとストレスにさらされ続けたことで、うまくオフにできない状態になっていた。

アルコールとストレスにさらされたマウス(紫)は、対照群(青)に比べて加齢に伴う認知的柔軟性(上)と青斑核の統合性(下)の低下が早く進むことを示した図

 加えて、アルツハイマー病患者の脳によく見られる「酸化ストレス」という細胞のダメージも確認され、禁酒しても脳が十分に回復しきれていないことがうかがえた。

点線で囲まれた青斑核の顕微鏡像で、アルコールとストレスにさらされたマウス(下)は、それを対照群(上)よりも酸化ストレスの兆候が強く現れている
Source and Image Credits: Revka, O., Belculfine, S.J., Fitts, L., Nippert, K.E., Teves, C.A.F., Reis, P.M. et al. (2026) Impact of chronic alcohol and stress on midlife cognition and locus coeruleus integrity in mice. Alcohol: Clinical and Experimental Research, 50, e70273. Available from: https://doi.org/10.1111/acer.70273

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