中国軍高官の粛清 産経「台湾有事に最大限警戒を」 朝読も習氏「1強」の危うさ懸念 社説検証
衆院が1月23日に解散された翌日、隣の軍事大国の異変を伝えるニュースが飛び込んできた。中国国防省が中国人民解放軍の制服組トップ、張又俠・中央軍事委員会副主席と同委員の劉振立・軍統合参謀部参謀長を「重大な規律・法律違反の疑い」で調査すると発表したのだ。
この粛清は何を意味するのか。産経、朝日、読売はいずれも「異常事態」との表現を用い、習近平国家主席の独裁色が強まったことへの警戒と懸念を示した。
中国軍の最高指導機関である中央軍事委では、昨年10月にも制服組ナンバー2だった何衛東氏が規律違反で解任されている。それ以前にも2人の委員が失脚しており、今回の粛清で、軍高官ら7人で構成されていた同委は2人だけになった。同委主席を兼ねる習氏と、習氏が昨年10月に同委副主席に抜擢(ばってき)した張昇民氏である。
結果を見る限り、習氏に諫言(かんげん)できる軍高官が排除された事態となった。3紙が「異常事態」とみなすのも、この点にある。
中でも産経は、中国軍が「今回の粛清で習氏個人に盲従する軍隊になった恐れがある」とし、台湾併呑(へいどん)に向けて習氏が私軍化した軍を動かす懸念を指摘した。
粛清された張又俠氏は中国軍が苦杯をなめた1979年の中越戦争への従軍経験もあり、「台湾への軍事侵攻に消極的だったとの見方がある」からだ。
その場合、全面侵攻とは限らない。中国軍内の汚職は深刻で規律が低下していると伝えられており、「台湾首脳部への〝斬首作戦〟などによる限定的攻撃」に踏み切る恐れもあると、産経は説く。「台湾有事は日本有事」との観点から、「最大限の警戒感をもって注視しなければならない」と強調した。
一方、朝日と読売は台湾有事には具体的に触れなかったが、いずれも見出しに「1強」という言葉を掲げ、習氏の独裁が進むことへの「危うさ」を論じた。
朝日が着目したのは、中国共産党の最高幹部24人で構成していた政治局でも、軍の制服組がいなくなったという事実だ。政治局員でもあった張氏や何氏の失脚により、「習氏のかたわらに仕えて助言をする軍高官が見当たらなくなった」とした。
習氏には、国共内戦で部隊を率いた毛沢東や鄧小平のような軍歴はない。「習氏は今後、軍事面で的確な判断ができるのか。ただでさえ不透明な中国軍に前例のない不安材料が加わった」と朝日は危惧する。
読売も、相次ぐ粛清により軍高官の発言力が低下すれば「専門知識に基づく正確な情報が習氏に届かなくなる恐れがある」と憂慮した。
習氏は大規模な汚職摘発運動を続けてきた。読売は、「習氏が汚職を理由に政敵を排除し、自身への権力集中を進めてきた面は否定できない」と指摘する。また、来年で3期目の任期を終える習氏が続投を念頭に軍の完全掌握を図っているとみられることから、「大物軍人を排除し、習氏への忠誠心が強い若手の登用を目指しているとの見方がある」と分析した。
3紙以外の主要紙では、3日までに毎日と東京が衆院選と絡めた対中問題を取り上げたが、軍高官の粛清には触れなかった。
両紙は、台湾有事をめぐる高市早苗首相の国会答弁を機に日中関係が悪化したとし、衆院選の論戦などを通じて「対話の糸口を探らなければならない」(毎日)、「外交・安保の双方で関係改善を目指すべきだ」(東京)と訴えた。日中関係を論じるのは当然としても、中国の「異常事態」にも問題意識を持ってほしかった。
米国は、習氏が中国軍の創設100年に当たる2027年までに台湾侵攻の準備を完了するよう指示したとみている。産経が主張するよう、衆院選では「抑止力向上など日本を守り抜く論戦」を展開すべきである。(川瀬弘至)
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■中国軍高官の粛清を巡る主な社説
【産経】
・隣国の異常事態に警戒を(1月28日付)
【朝日】
・「習主席一強」の危うさ(28日付)
【読売】
・「習氏1強」の危うさが増した(30日付)