「太陽系外惑星に生命の兆候」は本当か、専門家10人に聞いてみた

NASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)のデータに基づいて描いた太陽系外惑星K2-18b。K2-18bは地球の約8.6倍の質量を持ち、K2-18という比較的冷たい矮星のハビタブルゾーン(生命が存在しうるエリア)を公転しており、地球から約120光年離れた場所に存在する。新たな研究によると、この惑星の大気中にはジメチルスルフィド(DMS)という分子が存在する可能性があると示唆されている。(Illustration by NASA/ESA/CSA/Joseph Olmsted, STScI)

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 2020年、科学者たちは金星に生命の兆候を発見したと主張した。地球の微生物が作り出すホスフィン(リン化水素)と呼ばれる悪臭ガスの痕跡だ。しかし、この主張にはすぐに異議が唱えられ、数年経った今でも論争が続いている。そして今、また別の悪臭ガスが地球外生命体に関する新たな議論を巻き起こしている。今回の舞台は太陽系外の惑星だ。

 2025年4月17日、研究者たちはジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)のデータを使って、太陽系外惑星K2-18bの大気中から硫化ジメチル(ジメチルスルフィド、DMS)というガスを検出したと学術誌「Astrophysical Journal Letters」に発表した。

 K2-18bは、K2-18という恒星のハビタブルゾーン(生命が存在しうるエリア)を公転している。地球上では、DMSは主に微小な植物プランクトンによって生成される。したがって、他の惑星で生命の兆候(バイオシグネチャー)となる可能性があるのだ。(参考記事:「生命が存在しうる星は銀河系にどれほどあるかを推定、研究」

 DMSの検出に関わった研究者の何人かが所属する英ケンブリッジ大学は、この発見を「太陽系外における生物の活動のこれまでで最も強い兆候」とプレスリリースで素早く宣伝した。一部のメディアは、DMSを生命の兆候として大々的に報じた。

 しかし、DMSの発見に関与していない科学者たちは、より慎重だ。

「私はこの主張にはかなり懐疑的で、報道には天文学界と宇宙生物学界の懐疑的な見方をもっと反映してほしいと思っています」と、米ワシントン大学の宇宙生物学者ジョシュア・クリッサンセン・トットン氏はメール取材に答えている。

 2020年の金星におけるバイオシグネチャー騒動の当事者だった米バード大学の宇宙化学者クララ・ソウサ・シルバ氏にとって、この状況は残念なほど身近なものだ。「私たちは『金星のホスフィン』騒動から十分な教訓を得ていませんでした」と氏は言う。(参考記事:「金星の大気中に生命が存在か、ホスフィンを検出」「「金星に生命の痕跡」に反証続々、ホスフィンは誤検出の可能性」

 今回のバイオシグネチャー発見の主張をどう評価すべきか、ナショナル ジオグラフィックは10人の独立した専門家に話を聞いた(全員の主張を引用はしていないが、彼らの見解は反映されている)。以下に、K2-18bにおけるDMSについて知っておきたいことを紹介する。

今回の新たな主張を解説

 太陽系外惑星のニュースを追っている人なら、今回の発表を目にして、少し既視感を覚えたかもしれない。2023年、英ケンブリッジ大学の宇宙物理学者ニク・マドゥスダン氏が率いる同じ研究チームが、K2-18bにおけるDMSの存在を示唆するJWSTの観測結果をすでに発表していたからだ。(参考記事:「系外惑星に生物由来の物質か、新種の海洋惑星の可能性も濃厚に」

 同じJWSTのデータに基づいて、研究者たちはK2-18bが「ハイセアン惑星」と呼ばれる居住可能な惑星の一種であるとも結論づけた。

 ハイセアン惑星とは、マドゥスダン氏らが2021年に作った用語で、水素(hydrogen)と海(ocean)を組み合わせた言葉だ。地球よりも大きく、海王星よりも小さく、ほとんどが水で構成され、水素とヘリウムの厚いベールに包まれた仮想的な惑星群と定義した。適切な条件下では、生命が存在できる温暖な表層の海をもつ可能性がある。

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