戦争が環境に残す「見えない傷」
テヘランの空は、3月8日までにはすでに暗くなっていた。降り始めた雨は、悪臭を放つ、どす黒く濃い雨だったと住民たちは言った。その“黒い雨”は、道路や屋根や車を煤のようなもので覆った。その夜、イスラエルはイラン国内の石油関連施設を攻撃していた。攻撃規模とそれに続いた火災はあまりに酷く、米国の高官らが後に戦略的合理性に疑問を呈したほどだった。
だが被害はそれに留まらない。アラブ首長国連邦(UAE)のフジャイラ上空の煙や湾岸地域に流出した石油から、レバノン南部の農地焼失と汚染の恐れまで、紛争がもたらす影響は広い範囲に広がりつつある。
公開情報、衛星画像、ソーシャルメディアの投稿、公式発表など増え続ける証拠から、イラン、湾岸諸国とレバノンに広がる環境危機の実態が明らかになりつつある。わかってきたのは、陸と海と空での環境に対する多面的な攻撃だ。
戦争が環境に与える影響のなかには、煙や流出や瓦礫のように目に見えるものがある。一方、見えにくいものもある。開戦からの2週間だけでも、二酸化炭素換算で500万トン以上の温暖化ガスが排出された。
ミサイルが1発発射されるごとに、二酸化炭素換算でおよそ0.14トンが排出されると研究者たちは見積もっている。これは、車を560km走らせたのに相当する。この見積もりには、ミサイル発射そのものの排出量に加えて、ミサイル製造とサプライチェーンの排出量も含まれている。
こうした排出の発生源は兵器だけではない。航空機の出撃、海軍作戦、火災、燃料消費、再建からも排出はある。被害の一部は排出量として数値化できるが、その多くは物理的かつ局所的なもので、戦闘が続くあいだは全貌を把握しにくい。
環境は戦争の“声なき犠牲者”であるとよく言われる。イランへの攻撃が始まって7週間、世界は4月22日に地球環境保護を謳う「アースデイ」を迎えたが、環境はふたたび多大な犠牲を払っているのだ。
陸
開戦からの約45日間で、5万棟以上の家屋が破壊されたというレバノンの国立科学研究会議(CNRS)の推計をAFP通信が報じている。17,756棟が破壊され、32,668棟が損傷を受けたという。
米オレゴン大学の地理空間研究所「コンフリクト・エコロジー」の衛星を使った被害評価によると、イラン全土で7,645棟の建物がこの戦争で破壊されたという。だが、破壊された建造物は犠牲の一部でしかない。土壌や水、瓦礫に生じる汚染がわかるのは後になってからのことであり、数量化するのは難しい。
レバノンで環境破壊を研究してきた学者で政策アドバイザーのアントイン・カラブは、紛争は生態系を変貌させると語る。「いかなる戦争であれ、人を故郷や農地から引き剥がして移動を強いるものは、間違いなく環境に悪影響を与えます」
都市インフラの破壊は長期的な環境汚染を引き起こす。煙がおさまった後も、破片や瓦礫は長く残るからだ。「爆弾が爆発して発生した煙はいずれ雲散するけれど、汚染物質を含む瓦礫は残ります。そうしたものは土壌に染み込むと、とても、とても危険で、土壌の質を変えたり、水に溶け込んだりします」
影響の及ぶ範囲は広い。カラブによると、2024年のイスラエルとの戦争中、レバノンは1,500万トンから2,000万トンの瓦礫をわずか3カ月の間に抱えることになった。平時ならおよそ20年かけて生み出す量だ。
瓦礫は不活性なものではない。建物が爆撃されて粉々にされると、瓦礫はプラスチック、溶剤、絶縁繊維、重金属、アスベストなどの汚染物質を周囲の土壌と水に放出する。家や道路、給水ネットワークや衛生システムが崩壊すると、環境破壊はさらに深刻化する。