ロケットより地味だけど超重要。宇宙産業を支える“黒子”たち

Photo: Linda Moon / Shutterstock.com

宇宙と聞くと、ロケットや人工衛星ばかりが目立ちます。

でも、その裏側には“黒子”のような技術やサービスが存在していて、ぱっと見は関係なさそうに感じられても、実はその技術がなければ宇宙に行くことすら叶わないなんてことがたくさんあるんです。

また、宇宙関連専用に開発されているのではなく、既存のサービスを宇宙用に応用しているものも結構あります。 だから、宇宙開発や宇宙研究の人たちは、そういった「活用できるかもしれないサービスや技術」と出会うために、多くの人に興味を持ってもらいたいと思っているんです。

というわけで今回は、宇宙ビジネス展「SPEXA」で出会った「支える技術」にフォーカスしてみました。

板一枚がレーザーを支える

Photo:中川真知子

会場で目を引いたのは、モノクロの板(写真右側)。

株式会社システムズエンジニアリングが代理店を務めるLabshereの「Permaflect」です。

これはLiDAR(ライダー)と呼ばれるレーザーの光を使って周囲の形を3Dスキャンする技術の性能をテストするための基準板です。

LiDARは自動運転車に搭載されていて、周囲の車や歩行者を3Dで把握するための「目」の役割をすることで有名です。

人工衛星にも搭載されていて、地上の氷や森林、また大気を観測したり、月や火星といった惑星の表面をスキャンしたりするのにも使われているんです。そのデータのおかげで、地球の氷がどれくらい溶けているのかも把握できるし、森林の高さや密度も測定できます。また、洪水リスクが高い地域の地形だって正確に把握できます。

つまり、LiDARは私たちの生活をがっつりサポートしてくれているというわけ。

そんなLiDARの正確さを図るのが「Permaflect」。どの角度から光を当てても均一に反射するし、岩や雪といった異なる明るさのグラデーションも再現しています。

Photo:中川真知子

この板で反射具合をチェックし、クリアしたものだけが宇宙にいけるんです。

なんの変哲もない板だと思っていましたが、すごく奥が深いんですよ。

月面から届いた画像の裏に

Photo:中川真知子

2024年1月20日、日本初の月面着陸を成し遂げた小型探査機「SLIM」。目標着地地点から100m以内という“ピンポイント着陸”という偉業を達成したことで大きな話題になりましたよね。

ひっくり返って着陸というアクシデントに見舞われたり、周囲の岩にイヌの種類の名前をつける遊び心が爆発したりと、いろいろ語りたくなるプロジェクトでした。 私たちを楽しませてくれたSLIMを語る上で欠かせないのが、鮮明なカラー画像の数々。月面の銀色と黄金に輝くSLIMの美しさに目を奪われた人も多いと思います。

Photo:中川真知子

で、この通信を支えたのが、アンテナ技研株式会社の「小型S帯アンテナ」。

同社は「はやぶさ2」のローバーに逆Fアンテナを搭載し、小惑星リュウグウから画像と温度データを送った実績があるんです。 そして、その経験が評価され、SLIMでも引き続きアンテナを担当。

ブースで説明してくれた方に「画像が届いたときはものすごく嬉しかったですよね」と言ったら、満面の笑みで「ものすごく興奮しましたね」と答えてくれたのが印象的でした。

巨大パーツを測るロボット

Photo:中川真知子

東京貿易テクノシステム株式会社が展示していたのは、SF映画に出きそうな3D測定器

これは、メジャーなどで物理的に大きさを測れない大型なものを測定するためのロボットなんだそうです。

Photo:中川真知子

例えば、ロケットや大型の人工衛星の場合、パーツごとに作って組み合わせています。しかしそのパーツが少しでもずれたら打ち上げや機動投入に支障が出てしまいます。

そこで、この3D測定器のレーザーでスキャンしながら、各部品がピタッとはまるか確認するんです。

なお、遠隔操作も可能なので、燃料を扱うような危険が伴う場所でも対応可能。あ、用途は宇宙ビジネスに限定していないので、重機や建築物などさまざまな計測で活躍していますよ。

宇宙ゴミを片づける挑戦

Photo:中川真知子

宇宙ビジネスが盛り上がり、人工衛星の数が増える一方で、活動を終えた衛星や破片が漂う宇宙ゴミ問題も深刻化しています。

このまま何もせずにバンバン打ち上げていたら、新たに打ち上げる場所も無くなってしまうし、人工衛星の衝突リスクも高まってしまいます。

実は、今ですら1日あたり1000件くらいの衝突警報が出ているレベルなので、宇宙ゴミ問題はすぐにでも解決したい重大課題なんです。

で、そこに挑むのが、アストロスケール。秒速7〜8kmで飛ぶゴミに接近し、回収する仕組みを開発中です。

2024年には大きなデブリに15mまで接近し、民間企業として世界初の成果を達成。2027年には「ADRAS-J2」で初の本格回収を狙っています。

宇宙ゴミの回収って想像以上に難易度が高いので、回収作業と並行して、役目を終えた後に回収しやすくするシステムも作っているそうです。

今回紹介したのはほんの一部。でも確かに感じたのは、宇宙ビジネスはロケットや衛星だけで動いているわけじゃないということ。展示会で出会った人たちはみんな楽しそうで、ワクワクしながら自分たちの技術を語っていました。

その熱量こそが、宇宙をもっと身近にしていく原動力なんだと思います。

Source: 株式会社システムズエンジニアリング, アンテナ技研株式会社, 東京貿易テクノシステム株式会社, アストロスケール

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