「ジョブズなら許さない」だって?アップルのデザインには理由がある

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とくに、Proはね。

今年のAppleイベントにはちょっと驚きました。

Design is not just what it looks like and feels like. Design is how it works./デザインは見た目や触り心地だけじゃない。どう動くか、どう使えるかがデザインなんだ。

と、最初っから創業者スティーブ・ジョブズの言葉が引用されていたわけです。

この言葉に続くのは、彼らのデザインがハードウェアもソフトウェアも共通したルールで一貫していることを表現する映像の数々。さらにこれは「このイベントで発表される製品の数々にも、ジョブズの思想が貫かれていますよ」という表明でもあったはず。

アップルのデザインは突然変わった?

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ただし、世間の評判を見ると、iPhone 17 Proシリーズのカメラ部分の巨大な突起を指して、「ジョブズならこれを許さない」といういつもの意見がたくさん目立っていた印象です。(ちなみにこのカメラ部分、iPhone Airの英語プレスリリースではCamera Plateu=カメラ台地と表記されていました)

たしかに僕も、今回のデザインはジョブズやジョナサン・アイブ時代では採用されなかったテイストだと思います。

とはいえ、そんなのもう数年前からずっとそうです。決定的だったのは「MacBook Pro」が現行デザインになったとき。それまで徹底的に端子を減らし、ハードウェアの存在を消すかのように軽く薄くし、エレガントな“つるん”とした意匠を目指し続けていたジョブズとアイブの方向性とは、まったく異なっています。

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……じゃあダメかというと、真逆。今のMacBook Proは最高ですよ。CPUがIntelからApple Siliconに変わった変化も大きいですが、やっぱりSDカードスロットもHDMI端子もあったほうが絶対に便利だし、Touch Barよりも物理的なescキーでしょう。筐体が厚くなった分、スピーカーも素晴らしいです。

たしかにTouch BarモデルのMacBook Pro、あのスリムさはかっこよかった。ファンクションキーもないほうが見た目はかっこいい(ジョブズはファンクションキー嫌いだったそうです)。でも、プロの仕事道具としては、そんな見た目よりも「どう動くか、どう使えるか」なんですよ。

カメラの出っ張りを逆手に取った「デザイン」

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iPhoneにProラインが出たあたりで生まれたのが「Proとは?」という疑問

何を隠そう、僕もしばらくそう思い続けてました。しかし、動画性能が大幅に向上した15 Proあたりからどんどん納得度が増してきて、今回の17 Proで思いました。

「うん。これはProモデルですね」。

その大きな要因は、背面のCamera Plateau(今回はこの呼び方で統一します)。リークの時点では「デカすぎんだろ」と思っていましたが、さすがに実際の仕上げはとてもいい。

ここまでデカいと「機能性を追求したんで、出っ張りました」「はい、わかりました」って感じですし、なんなら「撮像系の機能ブロックそのもの」を示すデザインになったわけですよね。

さらにProモデルでは、その下には超巨大なバッテリーと冷却システムが詰まっていて、それを覆うようにCeramic Shield 2加工が施されている。

「カメラ」+「頭脳(チップ)&心臓(バッテリー)」の2ブロックと、表側の「画面」で見事に機能とデザインが分割されているってことですね。カメラや音響機器などでの民生機に対する「業務用機器」の魅力がある気がします。

そしてこれ、ハードウェアだけじゃありません。新たにリリースされたOS群が採用したデザイン言語「Liquid Glass」は“情報のパネル”で構成されています。

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たとえばFinderウインドウを見てみればわかります。サイドバーやフローティングタブがガラスパネルとして区切られています。ここでも共通するのはゾーニング=区画化の発想

ガラスモチーフによる屈折や反射のエフェクトは「見た目の遊び」に見えますが、実際には「どの層が何を担うか」を”動き”で直感的に示す役割を果たしています。

まとめると、”Camera Plateauが物理的な機能をまとめたハードウェアデザインであるように、ガラスパネルは情報や操作をまとめるデザイン”って感じです。

もちろんカメラ部分が出っ張るのは技術的制約によるものが第一でしょうが、それならばと見事にワークするデザイン言語を開発し、ソフトとハード両面から「UI」として納得性を持たせたデザイン手法は本当にお見事だと思います。

より広い意味での「多様性」がここにある

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とはいえ、あのエレガンスが恋しい気持ちはわかりますし、僕にもあります。

理想に近いのは、iPhone 7のジェットブラック。電源をオフにすると全体がまるで1パーツだけでできているように見える、ある意味での最高傑作だったと思います。

ただし今回、アップルはジョブズ&アイブのエレガンス方面を好むユーザーにも選択肢を用意しています。

それが「iPhone Air」。

もちろんこの機種について「あれがない、これがない」という指摘があるのは知っていますが、ジョブズ&アイブ時代のアップル製品だってないものだらけだったじゃないですか。

今回のiPhoneラインナップを整理すると

・Pro=実用主義(性能と持続性)

・Air=美学主義(薄さとエレガンス)

・無印=体験の底上げ(ProMotionの民主化)

「プレミアムは一列の頂点」ではなく「三極の選択肢」に変わった。って感じでしょうか。

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かつてのAppleは「薄く、軽く、ポートを減らす」というエレガンスを突き詰めてきました。なんならProモデルでもそれを追求してきました。でも、今は違います。

iPhoneやMacがより多くの人たちに使われるようになってきた今、より多くの需要と多様なニーズにアップルは直面してきたわけです。

それは言葉通りの意味での多様性。アップルはそこに真摯に向き合っていると思います。

とは言え、個人的な要望を言うならば、カメラの強化はもっとガチでやってほしいです。どれだけ高くなってもスマホの範疇で最強と言えるカメラが見てみたいな〜。

Source: Apple

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