原発再稼働の容認 住民の不安根強いと朝毎東 産経「エネ供給に厚み増す」 社説検証

新潟県庁での臨時記者会見で質問者を指名する花角英世知事=11月21日午後

東京電力の柏崎刈羽原発(新潟県)、北海道電力の泊原発(北海道)の再稼働を地元知事が相次ぎ容認すると表明した。両知事の判断について、主要紙の評価は大きく分かれた。産経は「日本のエネルギー供給構造の厚みを増す動きである」と評価。読売、日経も知事の決断に理解を示した。これに対して朝日や毎日、東京は安全や防災対策など住民の不安が根強いことを理由に疑問を呈した。

新潟県の花角英世知事が柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働容認を表明したのは11月21日。12月の県議会で自身の判断について信任を諮ったうえで国に伝え、年内に地元同意の手続きを終えるとした。地元了解が得られれば、東電は来年1月にも6号機を再稼働する見通しだ。

花角氏の判断について、産経は「県の責任者として慎重な検討に傾くあまり、時を要しすぎた」としながらも「前向きの決断を評価したい」と歓迎した。同原発は、首都圏の電力需要を支える役割を担っており、「国の中枢機能を脅かす電力逼迫(ひっぱく)リスクも軽減される」とも指摘した。

東電は巨額の赤字に苦しんでいるが、6号機が再稼働すれば、年1千億円の収支改善が見込める。日経は「最大の使命である福島の廃炉や賠償を遂行する一歩としなければならない」と説いた。

ただ、東電は福島第1原発事故を起こした当事者だ。発電所員によるIDカードの不正利用などによって、原子力規制委員会から事実上の運転禁止命令を受けたこともあり、県民意識調査では再稼働の賛否が二分された。

こうした点を踏まえ、朝日は「県民の多くが必要とする避難路や放射線防護施設、豪雪時に避難できる除雪体制を整備する前に再稼働を認めることは、県民の不安を置き去りにする判断にほかならない」と異を唱えた。政府に対しても「原発回帰を急ぐのではなく、再生可能エネルギーの拡大にこそ力を入れる必要がある」と訴えた。

毎日も「住民の不信は払拭されていない。国も重く受け止めるべきだ」と指摘。そのうえで「県には、民意を踏まえ、安全性の向上などの取り組みを監視する責任がある」とクギを刺した。

一方、北海道の鈴木直道知事は11月28日の道議会で、泊原発3号機の再稼働を容認する考えを初めて示した。さらに12月10日には再稼働の同意を表明し、北電が目指す令和9年早期の再稼働に向け大きく前進した。新潟県知事に続く再稼働容認の判断に、産経は「原発再稼働への地元同意で強い影響力を持つ知事の、相次ぐ前向きの決断を歓迎したい」と評価した。

鈴木氏は容認の理由として、電気料金の引き下げが見込まれることや、最先端半導体の量産を目指しているラピダスなどを念頭に電力需要が増えることなどを挙げた。

読売は「安定した安価な電源を確保し、経済を活性化させる意義は大きい。原子力発電所は、脱炭素化社会の切り札ともなる。再稼働を着実に進めていくことが重要だ」と指摘した。北電には「知事の判断を重く受け止め、住民の不安が払拭されるよう、防潮堤の建設など準備に万全を期さねばならない」と求めた。

これに対し、東京は「積雪時に原発事故と地震や津波が重なる『複合災害』が起きれば、避難が困難を極めることは想像に難くない」などとし、「経済的なメリットが大きいとしても、安全と引き換えにできるものではない」と批判した。

東日本大震災後に再稼働した原発14基のうち、13基は西日本に集中しており、東日本は東北電力の女川原発2号機(宮城県)だけだ。大量の電力を安定的に供給できる原発の再稼働が東日本で進むことは、日本がエネルギー安全保障と脱炭素を両立するために重要な意味を持つ。

過酷な原発事故を経験した日本で、原発活用に賛否が分かれるのは仕方がないことだろう。住民の不安を払拭するには不断の安全対策を進め、トラブルを未然に防ぐこと以外にない。東電、北電はそのことを忘れてはならない。(高橋俊一)

原発再稼働容認をめぐる主な社説

【産経】

・前向きの決断を評価する(11月22日付)

・地層処分調査にも理解を(29日付)

【朝日】

・疑念ぬぐえないままの容認(11月22日付)

・不安置き去りの容認か(12月2日付)

【毎日】

・解消されぬ東電への疑念(11月22日付)

・住民の不安解消が最優先(12月6日付)

【読売】

・再稼働へ知事の重い判断だ(11月22日付)

・経済活性化の意義は大きい(12月11日付)

【日経】

・柏崎再稼働で原発の安全な推進を(11月22日付)

・泊原発の再稼働を電力安定供給へ生かせ (12月13日付)

【東京】

・住民の不安置き去りだ(11月22日付)

・あまりに拙速な判断だ(12月12日付)

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